観光列車、百花繚乱——。いつの間にやら、日本中を観光列車が走り回るご時世になっている。時間もお金も、とても庶民には手が出ない高嶺の花の列車もあれば、比較的手軽に乗れて、その上で充分に楽しませてくれる列車もある。
クルマと違って、自分でハンドルを握る必要のない鉄道の旅は、車窓を眺めたり旨いものを食べたり、同行者とのおしゃべりに興じたり、まあそれはそれは贅沢な時間だ。観光列車の多くが予約もなかなか取りにくい盛況ぶりだというのも、そうした贅沢な時間を求める人が多いからなのだろう。ローカル線がどうやらこうやら、いろいろ鉄道業界は逆風の中にあるが、まだまだ捨てたものではない。
で、そんな人気の観光列車のひとつが、北陸は能登半島、JR七尾線を走る「花嫁のれん」だ。
日ごろは駅員、線路の点検をしていて…ちょっと異質な観光列車「花嫁のれん」とは?
金沢~和倉温泉間を1日2往復。和倉温泉の加賀屋あたりに宿を取ったお客が乗るのだろうか。輪島塗や金沢の金箔、加賀友禅などをイメージした豪華な外観。北陸文化をふんだんに取り込んだ絢爛な車内。事前に注文すれば、加賀・能登の味わいが詰まったお弁当や日本酒を車内で頂くこともできる。やっぱり観光列車の旅には、お酒はマストアイテムですよね……。
つまるところ、金沢と和倉温泉を往復するという、その移動の時間がただの移動ではなくて、まるごと楽しい時間に変えてしまう「花嫁のれん」。ざっと1時間半の旅の途中が、もう圧倒的な能登の世界。楽しい時間はあっという間、運行日までにほとんどの席が埋まってしまうこともあるのだという。
そして、「花嫁のれん」にはもうひとつ特徴がある。お弁当を運んでくれたり、車窓の案内をしてくれたり、車内限定グッズを販売してくれたり、あとはちょっとした雑談に付き合ってくれたり。和服に身を包んで、そういう役回りをする乗務員が乗っているのだ。それもみな、JR西日本の社員たちだという。
いやいや、観光列車に限らず、乗務員が乗っているのは当たり前でしょう。新幹線だってね……。そんなご指摘もごもっとも。ただ、ちょっと違うのは、「花嫁のれん」に乗っている乗務員の皆さん、ただの社員ではない。
普段は、観光列車の乗務員とはまったく異なる、別の場所でお仕事をしている。そして、割り当てられた日にだけ制服を着替え、「花嫁のれん」の乗務員に変身するのだ。これって、いったいどういうことなのでしょう……。
というわけで、実際に「花嫁のれん」に乗務している吉川航平さん、山口真弥さんに話を聞かせてもらった。吉川さんは金沢新幹線保線区、つまり新幹線の線路を点検・保守する仕事をしている。山口さんは金沢駅の駅員さんだ。このふたりは、自ら手を挙げて「花嫁のれん」のアテンダントになったという。