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 頭ではわかっていても、実際に列車に乗ってお客の立場になれば、また改めて保守の大切さを意識することにつながるのだ。ちなみに、保線のプロである吉川さんは、列車が“揺れる場所”をあらかじめ把握済み。車内ではコーヒーなどの飲み物を運ぶこともあるが、揺れる場所を通過するタイミングを避けるなど、保線マンならではのアプローチもしているそうだ。

「駅だとどうしてもスピードも求めちゃうんですよね。どれだけ早く、どれだけ正確に、と」

 そして、金沢駅で働く山口さん。普段から窓口などでお客と接する仕事をしているが……。

「駅だとどうしてもスピードも求めちゃうんですよね。たくさんのお客さまがいる中で、どれだけ早く、どれだけ正確に、と。

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 だけど、『花嫁のれん』の場合、1時間半ほどの乗車時間でどれだけ喜んでもらえるかということに変わってくるので、そこは駅とは違う楽しさというか、乗っている自分たちも楽しく仕事ができています。駅ではなかなかできない、お客さまとのお話もしっかりできるので、それは楽しいですよね。毎日でも乗りたいくらいです(笑)」(山口さん)

 

 山口さんは、福井県は嶺南地域の出身。学生時代は自転車で通学していたため、電車に乗るのは大阪に遊びに行くときくらい。そんな山口さんだが、兄がJR西日本に就職して乗務員をしていたことで、同じ道を進むことを決めた。

「いまは運転士をしていますが、私が学生のときは車掌をしていて。で、福利厚生がいいよ、とか話を聞いていたんですよ(笑)。それに、電車に乗ることはほとんどなかったですが、接客業が大好きで、高校時代のバイトも接客ばかり。就職先を考えるときも、接客業がいいなと思っていました。そんなときに、兄から話を聞いて、めちゃくちゃいいなと、入ることに決めました。

 学生の時は、それこそ乗り方もわからないし、きっぷの買い方ももちろんわからない。たまにきっぷを買いにいくだけでも緊張していたのを今も覚えているんです。卒業して6年経つんですけどね(笑)。

 だから、そのときの気持ちを思い出すと優しくなれる。お年寄りだったら、ICカードの使い方も分からない方がいるので、それをていねいにお教えしたり。そういう意識は、『花嫁のれん』でも活かされていると思います」(山口さん)

 

「さすがに辛かった」誰ひとり来ない日もあったコロナ禍の窓口

 山口さんは、金沢駅での勤務になる前は敦賀駅で働いていた。ちょうど、コロナ禍がはじまったばかりの時期。窓口に座っていても、待てど暮らせどお客がやってこない。そんな経験もしている。夜の19時から窓口を閉める22時まで、誰ひとりお客が来ないこともあったという。「さすがに辛かった」と振り返るが、そんなときにもしていたことがある。

「入社して3年目になったときだったので、新入社員が入ってくるのに備えてその子たちのための資料作りをしたりしていました。あとは、マスクをしているからお客さまにしてみれば私たちの素顔がわからない。