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「世間にはオレとエモは仲が悪いって思われていこうやないか」

 中西の打撃理論はこれにとどまらなかった。これまで数多くの打者の指導をしてきて、何十通りの指導方法があると聞いた野村は、こう話していた。

「あの人は真の打撃職人や。選手の体の使い方やクセから特徴を見つけ、『この練習がええぞ』と処方できる。ああいう人に教わった選手は幸せやろうな」

 江本も野村の意見に同調する。

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「今はデータだの、機械に頼ってスイングスピードを測ったりと、いろいろな視点で打撃をチェックできますが、いつの時代も変わらず指導するための重要なポイントというのはあるんです。最近は昔の指導方法のことを話すと、『昭和の野球でしょう』と皮肉を言う人がいますが、科学では分析できない目というものを持った人が指導者のなかにはいるということも、知っておいてもらいたいですね」

中西太氏 ©文藝春秋

 中西が亡くなったことで、プロ野球界からは「本物の打撃職人がいなくなった」と江本は嘆く。

「ホームラン王、首位打者、打点王のすべてのタイトルを獲って、なおかつ正しい技術を正確に伝えられる指導者というのは、中西さんをおいて他にはいませんでした。野球界では残念ながら絶滅危惧種となってしまいましたね」

 一方で野球マスコミから、江本と中西は、「修復不可能な仲になった」と見られていたことについては、

「ここまで読んでもらっておわかりの通り、どこかで中西さんと会えば必ずあいさつをして話もしていました。例の騒動は僕にだって落ち度があって、そのことで中西さんにご迷惑をおかけしてしまった。

 中西さんともこのことをお話ししたことがあったのですが、『ええやないか。世間にはオレとエモは仲が悪いって思われていこうやないか』って、笑い合っていたんです。現役時代はいがみ合っていたように見えても、引退後はフレンドリーに接する間柄になる――。野球人って世間が思うほどギスギスしてはいないんですよ」

 そう笑っていた姿が印象的だった。

 中西は今ごろは先に亡くなった野村と野球談議を交わしているかもしれない。そう思うと、なんだかほほえましくも思えるのである。