神戸へ逃げた姉
しかし、よそ様に迷惑をかけているだけに、ひかりさんも気が気ではない。話を聞けば、自営の運送業もコロナの影響で仕事がなくなり、姉が本当に金欠状態だとわかった。
「わかった、もう向こうの親にお金払う! 貸してあげるから、今のうちにちゃんと家借りて、生活を立て直して! って全部肩代わり。それで、仕事をちゃんと立て直して、うまいこといったら返してくれればいいから、と伝えたの。そもそも運送業の会社も、私が保証人になってるからね。姉ちゃんは電話口で『わかった、わかった』って言ってたんだけど、その後どうなったと思う? 全部私が片付けて、姉ちゃんに電話したら、『あー、今は神戸にいる』って。おい、どうなってんだ! って感じ」
なんと、神戸に新しく彼女ができたから、その家に転がり込んだというのだ。その女性には大学生の子供もいる。家賃滞納の件ではひかりさんは面識のない人に怒られて、お金を払い、尻拭いに奔走したというのに、あかりさんは逃げるように神戸へ。
「姉ちゃんは逃げたから、家賃滞納の件の電話は全部私にかかってくるわけ。頭にきたから、姉ちゃんに文句言ったら、『ご飯食べる暇もないくらい忙しい』とか『トイレ行く暇もない』とか言ってさ。いちいち大袈裟なんだよ。しかも『関東にはいい思い出もふけないし、心身ともに疲れたから……』なんて感傷に耽ってるの。ふざけんなって感じ」
ああ言えばこう言う。話を聞いてるうちに、あかりさんに興味がわいてきてしまった。そもそもあかりさんは転々と女の家に転がり込めるだけの「人たらし」なのではないか。
「ちょうどその頃に、家族カードを使い込まれたの。もともとは、現金がないときにはこのカードで支払って、後で自分が使った分を返してくれればいいからって、渡していたんだよね。最初はちゃんと返ってきてたし。でも、コロナが始まったときに、うちも営業できなくなって収入がなくなった。従業員の給料も払わなきゃいけないし、姉ちゃんの買い物の立て替えしてる場合じゃなくなったのね。だから姉ちゃんに『もう使わないで』って言ったの。『わかった、わかった』って電話で言ってたんだけど、いきなり80万円くらいの請求がきて。その翌月も80万くらい」
ひかりさんはあかりさんに持続化給付金の申請方法なども丁寧に教えたり、アドバイスもしていた。そんなときにも平然としれっと大金を使い込んでいたのだとか。