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 控室では、桐山先生を始め、大盤解説の古森悠太五段・加藤桃子女流三段など大勢で検討していまして、ようやく詰みがないことがわかって、じっと見守っていたら指したので控室で歓声が上がりました。

 どちらかの攻めを持ちこたえて反撃する、という将棋ではなくて、足を止めて打ち合うという珍しい展開でしたね。こういう将棋の流れはあまりないかと。手数は短いですけど、内容はとても濃かったですね。藤井さんはずっと自信がなかったという感じでした。雁木が薄いので。渡辺さんもずっと自信がなかったけど仕方がない、感想戦での雰囲気からはそう感じ取りました」

副立会人を務めた北浜健介八段 ©文藝春秋

「あのときと今と変わらないんです。良い意味で」

――藤井さんとの出会いについてうかがいたいのですが。

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「最初の出会いは2015年3月末、詰将棋解答選手権の大阪会場です。藤井さんが初優勝したときですね。まだ奨励会の二段で、会場では私の前の席に座っていました。終わった後で詰将棋について話をしたんですが、大人と話しているようでした(笑)。とても12歳とは思えなかった。言葉使いも、落ち着き方も。詰将棋を作るのもすごくて、高名な作家が作るような、完成度の高い詰将棋を小学生の頃から作っていました」

――優勝したのにはびっくりしたでしょう?

「まったく驚きはないです。むしろ、やっと優勝したのかと。解く早さと正確さがすごいことは知っていましたから。このときは、広瀬章人八段や宮田敦史七段も参加していましたが、本命だと思っていました。私ではとてもかなわないと」

――といいつつも、第2ラウンドでは北浜さんのほうが早く解きましたよね。記録を見ると、北浜さんが67分で藤井さんが69分で提出しています(※第1ラウンド、第2ラウンド5問ずつで制限時間は90分)。

「それは違うんです。第1ラウンドが終わって途中経過が出たとき、全問正解したのが藤井さんだけだったんです。なので第2ラウンドで全問正解すれば藤井さんが優勝(同点の場合には時間の少ないほうが上位)。

 とっくに全部解いていて、先に出す人はいないだろうと、ゆっくりと見直していただけです。それで私が提出したら、慌てて出したと(笑)。他にも何人もプロ棋士が参加していましたが、全問正解は藤井さんだけでした(※宮田が3位、広瀬が6位、北浜が7位)。

 ただ、藤井さんがどんな将棋を指すのかは、このときは知らなかったんです。大会実行委員の浦野さんとも話して、もう彼には(詰将棋では)誰も勝てないね、だけど将棋はどれくらい強いのかな、と。師匠の杉本昌隆八段が、藤井はすごい、藤井はすごいって、ことあるごとに連呼していたので、杉本さんがあそこまで言うから強いんだろうねえって、のんきに話してました(笑)。まさかここまで強くなるとは、当時は思っていませんでした。

 今回名人戦の打ち上げで藤井さんと話をしたんですが、あのときと今と変わらないんです。良い意味で。とても謙虚で。12歳の藤井さんも20歳の藤井さんも同じというのはすごいですよね。あのときから人間も完成されていたんですねえ」

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