渡辺明名人が名人4連覇なるか、藤井聡太竜王が史上最年少名人、かつ史上最年少七冠なるか――。

 第81期名人戦七番勝負第1局が、4月5・6日に目白のホテル椿山荘東京で行われた。

 振り駒で先手になった渡辺が凝った作戦を見せた。角換わりの出だしから角道を止め、雁木と矢倉の両天秤に掛けたのだ。だが藤井も考えることなく指し手を進め、12手目に端歩を突き、さらに桂を跳ねて急戦を匂わせる。渡辺はそれに備えて銀を上がるが、藤井の応手を見て雁木にする。明らかに事前に準備している手順だ。

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 王将戦で藤井と戦った羽生善治九段が、毎日新聞のインタビューで藤井について「対戦相手をしっかり分析した上で、自分は何をやるべきなのかを決めていたようです。相当、手広く研究しているのを感じました」と語っている。だが渡辺も藤井のこの動きは想定内で、右銀を繰り出し素早く仕掛けた。

名人戦第1局は、渡辺明名人の先手番で始まった 写真提供:日本将棋連盟

「居玉で仕掛けてくるとはびっくりだよ」常識破りの陣形

 意表の仕掛けに藤井は早くも大長考、そして強く立ち向かう決意を固める。居玉のまま桂を跳ねて仕掛けたのだ。

「矢倉に組むなら急戦するよ」

「矢倉はやめたよ」

「じゃあ雁木にするよ」

「そちらは角の転換ができなくなったから急戦するよ」

「それは軽視してたよ。じゃあこちらも仕掛けるよ」

「居玉で仕掛けてくるとはびっくりだよ」

 と、両者盤上で会話している。

 藤井の仕掛けは桂単騎なのだが、歩で桂馬を取りにいくと、継ぎ歩や十字飛車の筋がある。なので渡辺は角を上がり藤井が飛車先を交換して飛車を3段目に引く。居玉で角が使えない状態で桂を跳ね、飛車を3段目に引く。なんて常識破りの陣形なのだろうか。ここで渡辺が封じ手にして1日目を終える。

写真提供:日本将棋連盟

 2日目、玉を寄った渡辺に対し、藤井は端を突き捨てた。序盤早々に突いた端歩が生んだ攻めだ。

 そして敵陣の9七ではなく、1つ控えて9六に歩を垂らした。取る必要もなく、すぐに厳しい攻めがあるわけでもない。攻めていらっしゃいと手を渡したのだ。どこかでこんな手を見たことがあるなあと思いつつ、私は現地に向かい、午後に椿山荘の控室に。