藤井が見せた指し回し、これは羽生の手だ!
藤井の指し回しは見事だった。評価値上は良い手ではなくても、緩そうに見える手でも、相手に厳しい選択を強い続けて相手の持ち時間を削り、結果的に突き放している。
藤井の手をとがめる手がどれも難易度が高く、さらに渡辺が選びにくい手ばかりだった。
手番を渡した歩の垂らしと、冷静に竜を逃げて手番を渡したのと、自陣の銀の連打で負けない手を選んだのは……とここで気がついた。そうだこれは羽生の手だ!
王将戦第1局、羽生はじっと△3七歩と垂らして藤井にプレッシャーをかけた。王将防衛のインタビューで藤井は「少し手を渡すようなふわっとしたところがある一方で、こちらが踏み込んだ手を選択すると一気に終盤に入る可能性があるというところで、指される前はやりづらい手かなと思っていたんですけど、実際に指されてみると、△3七歩に対応する手、こちらが攻めていく手、どちらも難しいことが分かったので、少しやりづらそうに見えるところを掘り下げて、そこに可能性を見いだす、というのが強さなのかなと感じたところもありました」と語っていたが、この言葉、本局の△9六歩に変えても通じるではないか。
王将戦第2局、羽生は異形の金打ちから猛攻し、最後は一転して▲5七銀打、▲6九銀打と銀を連打してしのいで勝った。藤井はインタビューで印象に残った将棋として王将戦第2局をあげ、「羽生九段の柔軟な判断がとても勉強になった一局でした」と語っている。
そして本局、藤井は△5三銀打、△5二銀打と銀を連打して負けない形にした。
藤井が羽生の変化球まで身につけたら…
果たしてこれは偶然か? いやそうではないだろう。
間違いない。羽生が得意とする、「最善手を指すのが難しい局面にして手を渡す」と「緩急をつけて局面のスピードをコントロールする」技を、藤井は会得している。羽生は王将戦で6つの戦型を指し、すべてのテクニックを藤井に見せたが、それはこのためだったのか?
これはエグいではないか。ヤバいではないか。棋界最速のストレートの持ち主が、羽生の変化球まで身につけていたとしたら……。