渡辺明名人に藤井聡太竜王が挑戦する、第81期名人戦第3局が5月13・14日に大阪府高槻市で行われた。高槻に関西将棋会館が移転することもあり、市を挙げて将棋を応援していただいている。

 会場は今年3月にオープンしたばかりの高槻城公園芸術文化劇場。大盤解説会場にはコンサートで使われるホールを使用して、2日目は当日券もすぐ売り切れて1500人近くものファンが詰めかけた。現地の大盤解説会の人数としては過去最高だ。

「追い込まれているという雰囲気はなかった」

 私は現地で観戦できなかったが、副立会の北浜健介八段と出口若武六段に話をうかがったので、2人の談話も踏まえて内容を綴りたい。

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「会場は北大阪で最大の劇場だそうです。対局室も解説会場も素晴らしかったです。高槻市長は1日目も2日目もずっと控室にいて、熱心に検討をご覧になっていました。取材本部でも職員の方が全面バックアップされていまして、市を挙げて応援していただいて、とてもありがたいです。

 棋士も大勢顔を見せました。高槻在住の桐山清澄九段は2日とも。あとは浦野真彦八段、東和男八段、長沼洋八段、石川優太五段などです。また女流では佐々木海法女流1級、木村朱里女流1級も勉強にきていました」(北浜八段)

 北浜も出口も口を揃えて「両対局者は普段とまったく変わらなかった」と語る。

「2人はいつもどおりでした。前夜祭での挨拶もです。特に渡辺さんがいつもと変わらないのがすごいですよね。連敗してプレッシャー掛かっているのに。追い込まれているという雰囲気はなかったですね」(北浜八段)

挑戦者の藤井聡太竜王は、ここまで2連勝をあげている ©共同通信社

渡辺が雁木に誘導した意味合いが大きい

 渡辺は1局目は角道を止めて矢倉系の将棋にしたが、本局では角換わりに誘導する。だが通常の角換わりではなく、「飛車先保留型」だった。「飛車先保留型」については、広瀬章人八段が竜王戦第1局で採用したときに詳しく解説したので見ていただきたい。

 広瀬は3年ぶりの採用だったが、渡辺は2019年4月の稲葉陽八段との棋聖戦以来、実に4年ぶりの採用だ。とはいえ、保留型でくることは藤井の想定内だった。広瀬戦のときは15分考えて角換わりを受け入れたが、本局ではわずか2分で角道を止めて雁木に。「藤井が角換わりを避けた」というのは間違いではないが、正確でもなく、渡辺が雁木に誘導した意味合いが大きい。

 渡辺も雁木にしてくるのを予想していたのだろう、繊細な手順で矢倉に組む。渡辺は金銀3枚の金矢倉にしたのが過去300局余りあり、およそ4局に1局の計算になる。一方、藤井は先手では矢倉を指さず、矢倉の後手でも囲わずに急戦が主体なので、矢倉に組んだのは20局もない。