「果たして藤井さんの玉は動きますかねえ……」
立会の中村修九段、副立会の三枚堂達也七段、千田翔太七段と検討するが、藤井が長考に沈んだため検討が進まない。大盤解説会では午後2時から解説会が始まった。8000円という高額にもかかわらず、約400枚のチケットは完売で女性ファンが多かった。佐藤天彦九段は絶妙かつ絶好調で、指し手が進まなくてもお客さんも沸きに沸いていた。
中村に話をうかがう。
「1日目も2日目も、両対局者は普段どおりでしたよ。渡辺さんは平常心という感じで、藤井さんも気負った感じはなかったですね」
そして玉の位置の話になった。
「勝った将棋の『終局時の玉の位置』を50局ほど調べてみたんです。渡辺さんは8八(2二玉)と玉を囲っていることが多かったんですが、藤井さんは5八または5二が一番多かったんですよ。
この将棋は、渡辺さんは7九で藤井さんは5一ですが、果たして藤井さんの玉は動きますかねえ……」
渡辺が継ぎ歩で攻め、藤井も手抜いて攻め合いに。
若くて強力な検討陣でもなかなか結論がでない
今回は記録係が2人制ということで、齊藤優希三段(深浦康市九段門下)と田中大貴三段(北島忠雄七段門下)も休憩中に検討に加わる。ずっと盤側で見ているだけあって、彼らが指摘する手は鋭い。千田に三枚堂に三段と、若くて強力な検討陣だ。ところが彼らがいくら検討しても、なかなか結論がでない。何度「難しい」「わからない」という声がでたことか。
渡辺は強く攻め合い、竜を作らせて金を打って受ける。これで指せると読んでいたのだが、藤井に冷静に竜を逃げられ、渡辺は困った
藤井の居玉が妙に攻めにくいのだ。「居玉のほうが堅いんだねえ」と中村がつぶやく。藤井猛九段の「藤井システム」は、穴熊に囲われる前に攻めるために玉の移動を削っているのだが、こちらの藤井は居玉のほうが安全だと思っている。彼は「居玉は避けよ」の格言を死語にしようとしている。