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「負けるようにできているんだよなあ」渡辺のぼやき

 両者の話す速度がとても早い。途中で口頭だけでの検討もおりまぜるので、ついていくのは大変だ。

 棋王戦第3局でも観戦記を務めた後藤元気さんに話を聞くと「2人の感想戦はいつもこんな感じです」とのこと。

 終盤の寄せ合いで、渡辺が色々と修正案を出すが、どれもうまくいかない。

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感想戦にて、首をかしげる渡辺明名人 ©勝又清和

「負けるようにできているんだよなあ」と渡辺はぼやいた。端の歩も含め、すべての駒の配置が藤井に有利にできていた。まるで「次の一手」問題のように。

人間はここまで先が読めるのか

 三枚堂が指摘した、銀が桂の利きに出るトリッキーな手も2人は読んでいた。「命だけは助けてという手だからなあ」と渡辺が言う。一方、藤井は左手で扇子を回転させ、右手で持ち駒の歩をクルクルと回した。ああそうだ彼はまだハタチだった。

 以前師匠の杉本昌隆八段に聞いたとき、「藤井は何か持って回していないと読みのリズムが狂うみたいで、いつも扇子を持っています。昔持ち駒を回していた時があって、それはやめさせましたが」と言っていた。対局中に駒を回すことはないが、つい昔の癖がでたのだろう。表情はとても楽しそうだ。藤井の感想戦についていける棋士などそういない。名人とのハイレベルなやり取りが楽しいのだろう。

扇子を手にする藤井聡太竜王 ©勝又清和

 佐藤天彦は大盤解説会で、すべて読みを上回られてしょぼんとすることを「感想戦ハラスメント」と言っていたが。それにしても藤井の指し手によどみがない。何を問うてもすぐ答える。決戦になった時点で竜を作るところまで読んでいる。いや、竜が逃げたあとの、渡辺が読んでいた香の犠打の先も読んでいる(後日の主催者の取材で竜寄りまでは読んでいたことを本人が明かした)。

 人間はここまで先が読めるのか。

 こりゃエグいよなあ。

 感想戦は1時間あまり、両者頭を下げて感想戦が終了した。みているだけで頭がフラフラになった。