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 華人(香港人や台湾人も含む)は、ある目的を達成するために、目下の利害関係が一致する人たちが立場を問わずひとまず手を組んで共闘するスキルが高い(求同存異)。特に自分たちの勢力が弱く、敵が強い場合はなおさらだ。そもそも中国共産党にしても、この手法(統一戦線)で勢力を拡大して天下を取っている。

 この新宿南口の天安門集会も、そもそも雑多な集団である中国人の若者の白紙運動グループに、さらに民主中国陣線などの古い活動家グループや香港グループが提携するという形でおこなわれていた。

天安門リーダー・王丹批判ビラが配られる

 いっぽう、反中国共産党の「統一戦線」とはいえ、若者世代が中心だけに、会場では従来の日本の天安門追悼運動では絶対に出てこなかったであろうビラや立て看板も登場していた。

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 なかでもインパクトが強かったのが、王丹への強烈な批判だ。解説しておくと、王丹は往年の天安門デモの筆頭格のリーダーで、その後も中国民主化運動のアイコンとして、日本を含めて世界的に名前を知られた人物である。今年6月2日にニューヨークで開館した天安門事件記念館の設立にも、(新宿南口で演説していた周鋒鎖とともに)携わった。

 ところが目下、王丹は9年前に若い政治スタッフに対して無理矢理キスをして服を脱がせようとしたことで被害者から告発されており、中華圏では大きなスキャンダルになっている。ゆえに6月4日の新宿南口の現場では、なんと「六四×me too」と題したこんなビラが広く配られていた。

王丹ら著名な天安門リーダーも、性強要の加害者として批判される。©安田峰俊

“天安門事件の記念運動はあなた方だけの所有物ではありません。事件それ自体も、あなた方だけではなく当時を生きた民衆すべてのものです”

“あなた方はあの時代の偉大なる象徴として、これまで募金集めと演説と名誉回復と……セクハラに奔走してきましたよね!?”

“いまはもう2023年です。私たちは「偉大なる権威の象徴」なんて要りません。性暴力を社会運動の現場から追放せよ!!”

楽屋のお姉さんたちが“怖い”

 ビラと立て看板のなかでは、王丹の他にも魏京生や胡佳など、過去に性暴力やDVが伝えられた超大物の中国民主活動家らの名前が書かれ、思い切り批判されていた。これらは主催グループに個人で参加していたフェミニストたちが作ったものらしいが、他のメンバーも容認していた。

 そもそも、今回の集会のルーツである白紙運動はフェミニズムの影響が強い(念のため言えば、日本のフェミニズムではなく「中国のフェミニズム」である)。特に海外で白紙運動に加わった在外中国人の若者層は、欧米先進国のリベラル基準の人権感覚をもとに習近平政権を批判していた経緯がある。その基準からすれば、中国共産党はもちろん王丹や魏京生による人権侵害も許せないというわけだ。

王丹の責任を問う立て看板。「中国共産党は人道の敵」と「父権が死なねば独裁統治は止まらない」のスローガンが並ぶのが2023年式の抗議。©安田峰俊