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「叡王を防衛してほっとして疲れがでちゃったのかな」

 叡王戦番勝負、私は第1局の東京「神田明神」と第3局の名古屋「か茂免」を現地に出向いて観戦したが、いずれも勝利した藤井に余裕が感じられなかった。

 第1局では終盤、秒読みで何度か9まで読まれていた。第2局では藤井は完敗したが、藤井が居飛車穴熊に組んで負けるのはこれが初めてだった(先手穴熊で12連勝、後手穴熊で5連勝)。第3局でも終盤苦しくなり、さらには持ち駒の銀を打つときに駒を落とし、すわ時間切れかと控室を慌てさせるようなシーンもあった。岩手県宮古市で行われた第4局の最初の指し直し局は菅井が優勢だった。

 菅井は、A級順位戦では藤井に対し先手中飛車で勝っているが、叡王戦では千日手局含めて6局すべて三間飛車で戦った。過去には第14期竜王戦番勝負で藤井猛九段が5局すべて四間飛車というケースはあったが、すべて三間飛車というのは、おそらく初めてだ。

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©文藝春秋

 振り飛車党の棋士である戸辺も勇気を得たようだ。

「AIで研究されてしまう今だからこそ、菅井さんは三間飛車に、そして振り飛車穴熊に(6局中4局で穴熊)可能性を感じているのではないでしょうか。私も結果は出ていないですが、振り穴に力を注いでいます」

 高見も「玉をがっちり固める将棋では、藤井さんの持ち味が生きにくいですよね。切り合いになりにくいので」と語る。

 本局の渡辺もそうだが、藤井に勝つためには、あえて堅く囲わせたほうがよい、と判断したのだろう。

 立会人の田中寅彦九段が大盤解説から戻り会話に加わる。

「藤井さんも叡王を防衛してほっとして疲れがでちゃったのかな。この後すぐにベトナムだし、これからもすごいスケジュールだよね」

 藤井は本局の3日後、6月4日にはベトナムのリゾート地ダナンに到着していなければならない。そこで第94期棋聖戦五番勝負の第1局、佐々木大地七段との対局が6月5日に行われるのだ。岩手から長野、さらにベトナムへ……。天候も悪いなか、現地にたどり着けるのかと心配になるほどのハードスケジュールだ。

「だけどね、羽生さんも殺人的なスケジュールをこなして七冠取ったんだよ」(田中寅)