父・和生は幼くして父親を亡くしたことからアルバイトで家計を助け、学校を出るとテレビ修理の下請けをするなど苦労を重ねた。25歳のときにジュークボックスの販売会社(後にパチスロ機が本業に)を創業すると、会社は株式公開を果たすまでに成長し、彼は大富豪となる。その長男は若くして父の会社の取締役になるなど、後継者になるのが既定路線であった。
そんな親子が骨肉の争いを始める。2017年、長男が、ユニバ社の筆頭株主である岡田家の資産管理会社の支配権を父から奪うクーデターを起こすのだ。それに連動するかのようにユニバ社でも臨時取締役会で彼の命令権と職務執行権の停止が議決され、父・和生は自らが作り上げた会社を追われてしまう。冒頭の言葉はそのときのものだ。
いったい、どんな事情があって親子は争うようになったのか。
身内よりも愛人を選んだ父
和生の妻の死がきっかけであったと、著者の高橋はいう。和生は妻を亡くした翌年、31歳年下の女性と再婚(本書では触れられないが、後妻は長男よりも歳下になる)したことで、親子関係がぎくしゃくしはじめた。さらに父・和生が愛人のひとりを会社の要職につけようとしたことに長男が異を唱えたところ、和生は彼を取締役から外してしまう。
後継者のはずの身内よりも愛人を選んだ父――その変貌の背景には、ラスベガスのカジノ王との出会いがあったと高橋はみている。〈財欲、色欲、名誉欲――。あらゆる欲望が渦巻くラスベガスの大立者と交わった岡田は煌びやかで危うげな世界に溺れていく〉と。かくして欲望に取り憑かれた彼はフィリピンでのカジノ「オカダ・マニラ」の建設に邁進し、自らカジノ王になることを目指す。一方で社内では〈横暴の限りを尽く〉し、巨額の資金の不正流用などの問題を起こした。
「今日戦争が始まりました」
父親の排除に取り掛かったとき、長男は妹にこうメールする。実際に父・和生はユニバ社や長男と「オカダ・マニラ」をめぐって、激しい抗争に突入する。「昨日(2022年5月31日)、当社元代表取締役の岡田和生氏の指示を受けた人物数名が、違法かつ暴力的に『オカダ・マニラ』の施設内に侵入・占拠しました」(ユニバ社のニュースリリースより)との事件が起きると、3ヶ月後には「オカダ・マニラの施設及び運営奪還に関するお知らせ」(2022年9月5日)を配信。前代未聞の情報開示はSNSを賑わせた。
占拠に奪還――親子喧嘩がここまで発展するとは、である。父親が息子の放蕩をやめさせようとする話なら近松門左衛門の人形浄瑠璃や落語のようだが、岡田家の場合は反対だ。「出来た息子」といえようか。
欲に駆られた権力者が、ときに部下に、あるいは身内に、そして時代に倒される。以上はそんなノンフィクション3作品である。