数あるテレビの報道番組の中でも、本格的な調査報道に定評があるのがTBS「報道特集」だ。
旧統一教会と政治家との闇、ロシアによるウクライナへの侵攻での悲劇、出入国管理行政をめぐる実態、東京五輪をめぐる公金流用……毎回のように「攻める姿勢」の報道で世間をあっと驚かせてきた。報道ドキュメンタリーなどに贈られる数々の賞を受賞してきた経歴もある。
遅きに失したTBS「報道特集」のジャニー氏の性加害報道
にもかかわらず、ジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川氏の性加害問題についてはこれまで特集で扱うことを避けてきた。3月にBBCが報道しても放送しない。4月に元ジャニーズJr.の被害者男性が記者会見しても特集で扱わない。
5月中旬にジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長が謝罪動画を公表しても動かなかった。ライバル番組として並び評されることも少なくないNHKの調査報道番組「クローズアップ現代」が動き出しても、まったく放送しないのだ。
テレビのドキュメンタリー番組や報道番組などのウォッチャーを自任する筆者には、この不自然なほどの無視がずっと気がかりだった。TBSの経営判断やトップの指示、躊躇や忖度などがあるのだろうか。ここまで報道しないなんて、ジャニーズ事務所の性被害問題はまったく存在しないと言っているのと同じではないか。
そんなモヤモヤが募っていた6月17日(土)、「報道特集」は初めてジャニー喜多川氏の性加害問題に関する特集を放送した。
遅きに失した印象は免れないが、民放を代表する報道番組が自ら取材した検証結果からは、覚悟が透けて見えた。筆者が注目したのは、ジャニー喜多川氏の生前の動画を主なテレビ報道の番組として初めて本格的に放送した点である。パーティー会場にいるジャニー氏の様子を撮影したわずか数秒の動画である。
公共的な目的があるケースだと報道機関として判断した
3月に報道されたBBCのドキュメンタリーでも、ジャニー氏の写真や動画を一切使っていない。代わりに似顔絵を使用していた。ジャニーズ事務所が「使ってほしくない」というケースで本人の動画などをあえて使用すると、訴訟などのトラブルに発展しかねない。
ところが、TBS「報道特集」はジャニー喜多川氏の動画や画像をジャニーズ事務所の承諾なく使用した。ということは、政治家などの公人や被疑者などのように、当人の承諾がなくても使用すべき公共的な目的があるケースだと報道機関として判断したということだろう。
ジャニー氏がすでに死亡していて裁判手続きを受けることができないことを差し引いても、少年時代に彼から性暴力を受けたという証言がこれだけ相次いでいるので、ある意味当然とも言える対応だ。小さなことのように見えるが、ジャニー氏のリアルな映像や画像をテレビ番組で放送したということは、「報道特集」側が弁護士などとも検討した上で出すべき映像だと判断したことがわかる。