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「歩かないで、両側に立つべき」が多数派なのに…「エスカレーターの片側空け」が終わらない根本原因

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genre : ライフ, 社会

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また日本エレベーター協会の専務理事は「日本のエスカレーターは欧米のものより、安全装置が作動しやすくなっている」ため「急停止で将棋倒しになる心配がそれだけ多い」と指摘。日本に限って歩行は危険との立場から反対論を展開する。この時点では業界団体の理屈もさまざまで、公式に禁止を訴えるほどでもないと考えていたようだ。

これらをふまえ、記事は最終的には「ご老人、子どもなどに危険を与えない、ということは、個々の人が常識としてわきまえるべき」との投書に代弁させる形で「仮に片側通行をするにしても、思いやりは“片手落ち”でなく、エスカレーターを急いで歩く人の側からも、立ち止まっている人への心遣いが大切」として、思いやりの問題に落とし込んで記事を締めている。

「右側をあけない鈍感な『立ちんぼカカシ』」

今から見れば、いかにも強者からの視点のように思えるが、実はリベラル側もこうした主張をしていたことは見逃せない。ベトナム戦争のルポルタージュなど「民衆側に立つ」ジャーナリストとして知られる元朝日新聞編集委員の本多勝一は、『朝日ジャーナル』(1992年2月14日号)の連載「貧困なる精神」で「エスカレーターのカカシ諸君へ」と題して次のように論じている。

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「大都市は地下鉄がますます発達し、したがってエスカレーターが激増し、しかも長大なエスカレーターになったおかげで、右側をあけない鈍感な『立ちんぼカカシ』による迷惑が一段とひどくなったのだ」
「提案する。この奇妙なカカシ習慣を打破するために、次ページ(※)のような看板か張り紙を、エスカレーターの乗り口に出したらいかがだろうか。このページからそのまま拡大コピーして利用されたい。ゲリラがお好きな方は、これを切り抜くなりシールに治成して『適当に』利用してください」
※「エスカレーターでは、カカシ(立ちんぼ)は左側、歩く人は右側をどうぞ」

本多は規則として決められているわけでもないのに、周りを見ずに盲目的に立ち止まっているのは「貧困な精神」による非合理的、非進歩的な行為であると断ずるのである。