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「歩かないで、両側に立つべき」が多数派なのに…「エスカレーターの片側空け」が終わらない根本原因

source : 提携メディア

genre : ライフ, 社会

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歩くとどれくらい時間を短縮できているのか

ところでエスカレーターで歩くと、どの程度早くなるのだろうか。エスカレーターの速度は建築基準法で上限が定められており、鉄道では通常毎分30mである(さらに低速のものもある)。

岩手県立大学の元田良孝名誉教授、宇佐美誠史准教授が2017年に行った調査によれば、エスカレーターの移動速度を加えた絶対的な歩行速度は毎分60m程度であり、ざっくり所要時間は半分になるようだ。

これに関連して諸外国では毎分35~45mのエスカレーターが一般的であり、日本の「遅さ」が歩行を誘発しているという指摘がある。実は国内でも特別な許可を得れば「高速」エスカレーターを設置することは可能で、地下鉄千代田線国会議事堂前駅、明治神宮前駅に毎分40m、つくばエクスプレス秋葉原駅に毎分45mのものが導入された例がある。

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急がないと間に合わないような利用方法はおかしい

エスカレーターの輸送能力は運転速度に比例して増加するが、歩行速度(毎分30m)とエスカレーターの速度差が広がるにつれて輸送力は飽和するとの研究もあり、単に速ければよいというものではない。速くなれば乗り降りが怖いと感じる人が増えるし、高齢者や障害者などの交通弱者にとっても危険だ。

三菱電機が開発した傾斜部と水平部でステップの間隔を変えることで、乗り場、降り場付近は毎分30m、傾斜部では毎分45mになる「変速エスカレーター」など、両立を目指す技術にも期待したいが、結局は10mのエスカレーターを立って20秒で利用するか、歩いて10秒で利用するかの差をどう考えるかだろう。

一分、一秒にこだわる人にとっては小さな差ではないが、歩かなければ電車に乗り遅れるというのであれば、それは問題の次元が異なってくる。エスカレーターを歩いたり、駅構内を走ったりしなければ間に合わない交通機関の利用方法は間違っているのである。

枝久保 達也(えだくぼ・たつや)
鉄道ジャーナリスト・都市交通史研究家
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(青弓社、2021年)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter @semakixxx
「歩かないで、両側に立つべき」が多数派なのに…「エスカレーターの片側空け」が終わらない根本原因

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