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「歩かないで、両側に立つべき」が多数派なのに…「エスカレーターの片側空け」が終わらない根本原因

source : 提携メディア

genre : ライフ, 社会

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なぜそれが「歩かないで」に変わったのか

議論の流れが変わるのは1990年代末、特に2000年代半ば以降のことだ。それまでエスカレーターは都心の大規模駅、つまり速度や効率を重視するビジネスパーソンの利用が多い駅を中心に設置されていたが、90年代以降はバリアフリーの観点から中小規模駅へもエレベーター・エスカレーターの設置が加速し、利用者の多様化が進んだためというのもあるだろう。

この頃から昇降機業界団体やメーカーは「エスカレーターは歩行を前提とした設備でないため、つまずいたり転倒したりする危険がある」との立場を明確にする。かねてエスカレーター歩行に否定的だった営団地下鉄は1996年に有楽町線有楽町駅、桜田門駅、新富町駅、銀座一丁目駅に「歩かないで」と掲示。

2004年に名古屋市営地下鉄、2006年に横浜市営地下鉄が「歩行禁止」の呼びかけを開始すると、2009年4月にはJR東日本が、エスカレーターからの転倒などを防ぐ安全対策という位置づけで「みんなで手すりにつかまろうキャンペーン」を実施し、これが鉄道各社に広がっていく。

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発祥の関西でも1998年に阪急が「お急ぎの方のため左側をお空けください」との放送を取りやめ、大阪市営地下鉄は2002年に右空けの案内を中止。2010年以降は関東私鉄、2014年以降は関西私鉄も「みんなで手すりにつかまろうキャンペーン」に参加し、現在に至っている。

挟まれる事故、逆走事故が相次ぎ…

キャンペーンの内容も次第に変化している。2010年には「お客様のおけがを防止するために、ご利用の際には手すりにつかまる」というあいまいな文言だったが、2014年以降は「エスカレーターで歩行用に片側をあける習慣は、片側をあけて乗ることのできないお客様にとって危険な事故につながる」と明言されるようになった。

鉄道事業者で顧客分析を担当していた筆者の肌感覚として、エスカレーターの安全に注目が集まったのは、2006年のシンドラー社製エレベーターの事故、2007年から2008年にかけて多発した樹脂製サンダルがエスカレーターに挟まれる事故、またビッグサイトのエスカレーター逆走事故など、2000年代後半に昇降設備の安全性が注目されたことと関係があると感じている。