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「歩かないで、両側に立つべき」が多数派なのに…「エスカレーターの片側空け」が終わらない根本原因

source : 提携メディア

genre : ライフ, 社会

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そこからキャンペーンの開始を挟み、2012年頃から新聞やネットでエスカレーター歩行の是非が取り上げられる機会が増えた。

しかし関西においては50年、関東においても30年もの間、定着してきた慣習を覆すのは容易ではない。前出のアンケートで示されたように、多くの人はエスカレーターでの歩行はやめたほうがいいと考えながらも、なかなかやめられない。

「走らないで」と呼びかけられている場所で、自分は急いでいるからと走る人の存在を思い起こせば、誰もが危険であり迷惑だと感じるだろう。エスカレーターでの歩行も同様と断じることは容易だ。

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「片側空け」を終わらせる唯一の道とは

だがこの問題はこのような単純な切り分けでは解決できない。というのもこれまで見てきたように、片側空けは「進歩」「国際化」なマナー、エチケットとして推進されてきたものだからだ。そしてそれは好き勝手にさせろという主張ではなく、それぞれの利用者の立場やペースを「思いやり」、共存するための主張だったから受け入れられてきたのである。

多くの人が良いことではないと思いつつも、禁止とまで言われると反発してしまうというのも、そのような心情によるものだろう。しかしそれは多数にとっての効率が重視される前時代の価値観であり、多様性への配慮と共存が求められる現代とは異なるものである。

1981年の朝日新聞にあったように40年前から「片側空けができない人」がいるという問題意識は存在していた。しかし、推進派の思い描く、急ぐ人、急がない人が共存するための思いやりのある社会の中に、少数かつ不都合な彼らの存在は含まれていなかった。

結局、価値観の転換が習慣を変えるという、これまで幾度も起こってきた出来事のひとつとして受け入れることが片側空けを終わらせる唯一の道である。海外では依然、片側空けがマナーであり、歩行禁止の取り組みが行われては失敗しているようだが、たまには日本が世界に先駆けてもよいではないか。