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本当は「あの主要キャラ」が殺される予定だった…『もののけ姫』“幻のエンディング”とは

『スタジオジブリ物語』より #2

genre : エンタメ, 映画

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 ジブリ映画『もののけ姫』(1997年)が7月21日に「金曜ロードショー」で放送される。ここでは、鈴木敏夫氏の責任編集のもと、スタジオジブリの40年の軌跡を記した『スタジオジブリ物語』(集英社新書)より一部を抜粋・再編集して『もののけ姫』完成までの舞台裏を紹介する。(全3回の2回目/3回目に続く)

※本記事では映画のラストシーンに触れています。

『もののけ姫』より © 1997 Studio Ghibli・ND

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「アシタカせっ記」をめぐる攻防

 もともと『もののけ姫』とは、大きな山猫のようなモノノケに、三の姫が無理矢理嫁がされるという初期設定版の内容に由来している。この三の姫の名前だけが残り、映画版『もののけ姫』のヒロインがサンと命名された。しかし、映画版の主人公はサンではなくアシタカである。そこで宮崎駿監督は、「アシタカせっ記」というタイトルを考え出した(編注:「せっ記」の「せつ」は、旧字体の草冠「艸」の下に「耳」の字をふたつ連ねた構成の創作漢字)。「せつ」とは、宮崎の造語で、草の陰で人の耳から耳へと伝わった物語という意味が込められているという。

 しかし、鈴木敏夫プロデューサーは、「アシタカせっ記」よりも『もののけ姫』のほうがいいと感じたという。「もののけ」という言葉と「姫」という相反するイメージの言葉をドッキングさせる意外性、それによって生まれるインパクト、さらに「姫」がいた時代の話なんだからというのがその理由だった。また、これまでの宮崎作品にはいずれも「の」が入っているというジンクスもあった。

 1995年12月22日、『となりのトトロ』のTV放映に合わせて、ジブリの新作の特報を放映することになった。これに合わせて鈴木は『もののけ姫』のタイトルを世間に発表してしまうことを考えた。

 そうして完成した特報が、ヤックルに乗ったアシタカが矢を射ろうとするその姿に合わせて、『もののけ姫』のタイトルが大きく映し出されるものだった。放送を見ていなかった宮崎はしばらく気づかなかったが、翌年1月2日に鈴木のもとを訪れると「あれ、出しちゃったの?」とだけ大声で聞いたという。鈴木はごく普通に「出しました」と報告。宮崎は特に返事をすることなく、そのまま自分の部屋に戻ったそうだ。

 こうして『もののけ姫』が作品の正式なタイトルとして決まったのだった。

解決不能な課題

『もののけ姫』のあらすじは、絵コンテの進行とともに少しずつ次のように固まってきた。

 タタリ神から呪いを受け、故郷を去ることになったエミシの少年アシタカ。彼は呪いの原因を探るため、西の国を目指す。そこではエボシ御前に率いられた製鉄民が、森の神々と熾烈な戦いを繰り広げていた。そこでアシタカは、犬神モロに育てられたもののけ姫、サンと出会う。そして、生命を司るシシ神を狙うため、エボシ御前に接触してくる謎の僧、ジコ坊がそこに絡んでくる。