スタジオジブリが2004年に制作した長編アニメーション映画『ハウルの動く城』。主要キャストに木村拓哉を起用したことでも話題となった。ここでは、鈴木敏夫氏の責任編集のもと、スタジオジブリの40年の軌跡を記した『スタジオジブリ物語』(集英社新書)より一部を抜粋・再編集して『ハウルの動く城』制作の舞台裏を紹介する。(全3回の3回目/2回目から続く)

『ハウルの動く城』より © 2004 Studio Ghibli・NDDMT

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『ハウルの動く城』映画化にあたっての変更点

『ハウルの動く城』のあらすじは次の通り。

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 帽子屋の長女ソフィーは、ある理由で荒地の魔女に呪いをかけられ老女に変えられてしまう。しかも魔法をかけられたことを誰にも話すことができなくされてしまった。この呪いを解くため家を出たソフィーは、町の人々から恐れられている魔法使いハウルの城へ、掃除婦として潜り込んでしまう。この城は、遠くの町にでも自由に行き来することができる不思議な扉を持った、奇妙な城だった。そしてその暖炉には、火の悪魔カルシファーがいて、城とハウルに力を貸していた。

 完成した映画では、前半はおおむね原作通りに進行しているが、後半にいくにつれてオリジナルな要素が増えていく。それは原作を現代性を持った映画としていかに構成していくか考えていく過程で生まれたものだった。

 宮崎駿監督は、映画化にあたって原作のソフィーの役回りに注目した。「準備のためのメモ」には次のように記されている。

 この作品は一種のホームドラマといえます。ソフィーがハウルに恋する前に、ソフィーは主婦としての立場を確立しています。火の悪魔や弟子のマルクル、犬人間やかかし、それにハウルを結びつけ、家族にする鍵はソフィーの存在です。動く城の中のマイホーム。そこへ戦争がおこるのです。おとぎ話の戦争ではありません。個人の勇気や名誉をかけた戦闘ではありません。近代的な国家間の総力戦です。ハウルは徴兵はまぬがれているようですが、戦争に協力することを求められます。要請ではありません強要です。ハウルは自由に素直に、他人にかかわらず自分の好きなように生きたい人間です。しかし、国家はそれを許しません。「どちらにつく?」とハウルもソフィーも迫られるのです。その間にも、戦争は姿をあらわします。動く城のドアのひとつがある港町にも、ソフィーの生家のある町にも、王宮にも、荒地そのものにも、火が降り、爆発がおこり、総力戦のおそろしさが現実のものとなっていきます。(『ジブリの教科書13 ハウルの動く城』)

 原作では戦争に関する記述はほとんどない。原作でハウルがいやいやながら命じられているのは、行方不明になった王の弟ジャスティンと、彼を探しに行って消息が分からなくなった王室付き魔法使いサリマンの二人を探し出すことで、戦争への協力ではない。戦争については敵国「高地ノーランドおよびストランジア」が今にも宣戦布告しそうである、という状況であると軽く触れられている程度だ。