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みんなに踏みつけられるのがアスレチックスの野球

 「1イニングならまあまあ抑えられる」のが分かっているのであれば、アスレチックスにいる必要はありません。もうどうせ、今年は最下位ですし、2027年はラスベガスに移転ですし。渡辺和子に『置かれた場所で咲きなさい』と激励されかねない状況ですが、いまやアスレチックスは敵味方共に有望なマイナーリーガー(プロスペクト)お試し場と化し、シケたマッチのような打線のお陰で大リーグ久しぶりの完全試合を喫して、一昨日も1安打18三振という情けない試合をやって醜態を晒しました。アスレチックスにおける藤浪さんの良さは「球はクソ速いけどストライクが入らないので爆裂炎上する、だが状況がこうである以上、藤浪は使われ続け、登板する」ことにあったのです。

 そして、アスレチックス的には貴重なメジャーの試合で、期待されるプロスペクトや藤浪さんのような「少し手入れすれば使える選手になりそうな素材」をかき集めてきてマウンドや打席を与え、そのチャンスで成長や修正を促し、まあまあ働けそうな状態まで仕上げて他球団にトレードで売る、映画『マネーボール』で指弾されたような「アスレチックスはビッグチームの傘下球団(二軍)」「選手を育てて売るビジネスモデル」と揶揄されることとなるのです。

 藤浪さんは、そんなアスレチックスではガッツポーズものの黒毛和牛のようなものですが、1イニング全力で速球を投げてようやく抑えられる、確かにノーコンは収まったけどこれは一過性の好調に過ぎないのかフォーム修正による成長なのか分からない、毎回全力投球でしか抑えられない以上29歳という年齢からすれば本当に野球人生全体で見て大成できる器なのかといった論点は当然出てきます。毎回真面目に投げてたら、1シーズンもたずに壊れる可能性は十分にあるし、首位争いをしているオリオールズのブルペンで9月以降まで立場を守り続けられるかと言われるととっても微妙です。

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 一緒にラスベガスに行くべきだったんじゃないか、まあまあ活躍し契約更新して来シーズンまで引っ張り、奴隷契約の期間が終わるまでにもう少し磨くことができたんじゃないかと思える良い素材だったなあというのが、アスレチックスから見た本来の藤浪晋太郎だったんじゃないかってのは間違いないと思うんです。私としては、もう少し、緑のユニフォームを着て躍動をする藤浪さんを見ていたかった。でも、それももうおしまい。どうか、どうか新天地で俺が藤浪だと聴こえてくるような、魂の投球をして欲しいんです。

 ああ、いつまでも藤浪さんの四球を見ていたい。ストライクゾーンど真ん中以外にはミットを構えない捕手。死球を怖れていつもより足半個分ぐらいホームベースから離れて立つ打者。ボールゾーンからボールゾーンへ、ストライクには一切絡むことない軌道でミットに収まる164km/hの剛速球。あるいは、土煙を上げて地面に叩きつけられ変なバウンドをし捕手が取れずにバックネットまで転がっていく白球。客の少ないスタンドから漏れるため息。

 それでいて、何事もなかったかのように次の登板マウンドに向かう藤浪さん。