ある試合では、敗戦処理で出てきた藤浪さんがまず挨拶代わりの四球。続くバッターにも堂々たる四球、一人フライで打ち取るも、さらに四球で無事満塁、堪り兼ねた監督が交代を告げると、続く投手がランナーを全部返して投球回三分の一、自責点3であります。全焼です。完全に、焼け落ちております。
「藤浪と大谷をトレードして欲しい」夢物語を口走るファンも続出
また別の試合では、先発左腕が2点リードを取られ、なお一死一二塁というピンチの状況で藤浪さんが登板。すでにこの時点で焦げた匂いが漂っているところ、先頭打者にいきなり挨拶代わりの死球。挨拶がし足りなかったのか、次の打者にも3ボールから貫禄の押し出し四球。さらに自慢の速球を地面に叩きつけ、捕手が取れずワイルドピッチとなりさらに1点。
ここで目が覚めたのか、俺たちの藤浪さんが剛速球を軸に連続三振に切って取り、先発が出したランナーは全部帰ってきたけど藤浪さん自身は自責点ゼロで悠然とマウンドを降りて帰ってくるのであります。
なんでこんな投手を登板させるねんとさらに荒れるコミュニティ。数少ないファンが藤浪さんへの賛否を巡って論争と罵倒と暴言とを繰り広げます。「ストライクの入らない藤浪を大谷とトレードして欲しい」などの夢物語を口走るファンも続出し、藤浪さんをどうにかしろというボルテージは最高潮に達してしまいます。
結果的に大リーグ版西武大沼幸二へと躍進
そもそも、アスレチックスにはまともな中継ぎなどいないのです。当時防御率10点台の藤浪さんが1イニングも抑えられず降板してしまうと、次に出てきた投手の防御率が40点台だったとかいう惨事になっておりましたので、むしろ藤浪さんに対するファンの暴言も、他にいる中継ぎよりはまだマシという期待の裏返しであったことは言うまでもありません。アスレチックスの抑えの切り札、トレバー・メイさんなんて、防御率ちょっと前まで5点台でしたし。ファンから、本業はメジャーリーガーよりゲーム配信じゃないのかとか煽られておりました。
しかし、さすがに素材は一級品の藤浪さん、中継ぎで出てきても「回を跨いで2イニング以上投げさせなければ何とかなるのではないか」とアスレチックス首脳陣も気づき始めます。また、阪神時代は投げていなかった、カットボールなんだか真っスラなんだか良く分からないまあまあ速い謎の変化球を修得。6月に入って藤浪さんの速球を待っている打者のバットの下をくぐるこの球種によりゴロ併殺で打ち取ってピンチをしのぐケースが増えると、やがて「ちゃんと調整すれば、1イニングならまあまあ抑えられる」という、敗戦処理界の大エース的立場に躍り出ます。
本来ならさっさとマイナー降格するかそのまま解雇となるところ、アスレチックスのチーム事情と有力代理人ボラスさんの存在が「まともに抑えられないけど事情があってロースターに残っている藤浪をたまに試合に出さないといけない」環境を作り上げ、結果的に藤浪さんは藤浪さんなりに大リーグの環境に適応していって、大リーグ版西武大沼幸二へと躍進を遂げるに至るのです。