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 記者は自分の謝罪を聞きたくて電話をかけてきたのだろう。前述したようにその記者はどうしても雑誌に責任があると決めてかかった、こちらの答えを誘導するような質問を投げかけてきた。自分は努めて冷静に見解を話した。電話口でのこちらの対応に、記者の戸惑いを感じた。話しているうちに、そもそもこの記者は『ティーンズロード』をほとんど読んでいないことが判明した。表面的にザッと眺めただけだったのだろう。

 表紙から巻頭のカラーページの多くは特攻服や改造車の派手な写真が並ぶため、確かにパッと見るとエキセントリックな内容に見える。ただ、モノクロページの読み物はほとんどがシリアスな10代の問題やドキュメンタリーで埋め尽くされていた。よく読むと実はかなり真面目な記事の方が多く、また、読者もそういう問題に真剣に自分の意見を投稿してきた。雑誌全体はレディースだけでなく、10代の少年少女のリアルな生き方が反映されている誌面になっているのだ。

「すみませんが、記者の方はうちの雑誌を隅から隅まで読んでいるんですか? 読んでいないなら読んでからもう一度同じ質問をしてください」

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 二度目の電話は来なかった。

決して曲げなかった編集方針

 メディアからこういう電話を受けたのは初めてだったが、この当時、読者の親、あるいは学校の教師からはかなり強いクレームを頻繁に受けていて、そのたびにこう答えていた。 

「不良や族になる子も、ある時期の反抗であり、多くの10代は年齢と共に落ち着き、母親になったり、地元で働いたり、立派に成長します。ある時期にハミ出るけど、このハミ出たこともすべてが悪いわけではなく、このこともしっかり認めてあげて彼らなりの意見や考え方を聞くことも大事だと思います、うちの雑誌はとにかく少年少女たちの意見を、できるだけ多く掲載するというのが編集方針なんです」

 中にはそれでも激怒する大人はいたが、この信念は決して曲げなかった。もちろん100%自分が正しいとも思っていなかった。こっちの立場は教育者でも指導者でもない。売れることも大事だし、綺麗ごとだけでは商業雑誌は作れないことも重々承知しているが、少し世間からハミ出した10代が何かを考える時間を、雑誌という枠で共有することが案外大事なことだとは思っていた。

“伝説の暴走族雑誌”『ティーンズロード』の表紙(写真=比嘉健二氏提供)

 この事件はまた、『ティーンズロード』にとっても大きな分岐点になった。自分たちなりに大手メディアと世間に堂々と反論しているという姿勢を読者に伝えることができたからだ。 

 別の視点から見ると、編集部も常識ある世間の大人から、批判的に見られているということも伝わった。このことはおそらく読者の琴線に触れることにもなったのではないだろうか。