「君は共同通信が求める記者の水準に達していません。取材・出稿を伴う現場から外れて頂くことを社として決めました」

 私が共同通信の幹部から「記者クビ」の宣告を受けたのは、半年間の育児休業を終え、久しぶりに出社した2023年4月3日のことでした。2017年4月に入社後、福岡、長崎、千葉で働き、それなりにスクープ記事も書いてきました。「人権を守り、報道への信頼増進に寄与した」として新聞労連から表彰された経験もあります。幹部の言葉は衝撃的で、すぐには意味を理解できませんでした。

共同通信からなぜ“クビ宣告”をうけたのか

 問題の発端は、2022年11月に著書「いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録」を文藝春秋から出版したことです。長崎市の私立海星高で起きたいじめ自殺を約3年かけて取材し、成果をルポにまとめました。本の中で地元メディアの報道姿勢について批判したところ、長崎新聞が「名誉毀損であり、回復措置を求める」と共同通信へ抗議してきたのです。

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石川陽一氏

 出版の契約は私が個人で文藝春秋と結んでいます。「名誉毀損だ」と言うのであれば、まずは版元に抗議するべきですが、それはしていません。長崎新聞は共同通信から記事の配信を受ける対価として運営費用を負担しており、オーナー企業の一つに当たります。つまり、自分より立場の弱い相手を選んで圧力を掛けてきたのです。

 共同通信はこれに易々と屈してしまいます。私への事情聴取を終えるよりも先に長崎新聞へ謝罪したのです。その後、形ばかりの審査委員会を経て2023年1月末、私が不適切な本の出版で会社の名誉や信頼を損ない、職員としての品位を害し、長崎新聞との信頼関係を傷つけたなどと認定します。冒頭のクビ宣告は、これが原因でした。

7月24日、日本外国特派員協会で行った会見

 私はこれに対抗して2023年7月24日、言論の自由を侵害されたなどとして、550万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁で起こし、日本外国特派員協会で記者会見を開きました。そこに至るまでの経緯を、ぜひ皆さんにも知って頂きたいと思います。

発端は自著で取り扱った“いじめ自殺”だった

 まずは簡単に、著書で取り扱ったいじめ自殺について説明します。2017年4月、海星高2年の勇斗くんが自ら命を絶ちました。いじめ被害を示唆する遺書や、加害者の実名入りの手記が見つかり、遺族は真相究明を学校へ求めます。

勇斗くん(写真:両親提供)

 学校が設置した第三者委員会は、約1年4カ月の調査を経て「自死の主たる要因はいじめ」と認定します。ところが、学校側は「論理的な飛躍がある」などと主張し、この結論の受け入れを拒絶。第三者委の調査結果に従わないという、前代未聞の態度を取ったのです。