1985年に創刊したフランス書院文庫は、多彩なアダルトコンテンツがあふれる現代においても“活字のエロス”をストイックに追求している。そんなフランス書院の裏話を描いた漫画が『令和に官能小説作ってます フランス書院編集部物語』だ。
作者のさとうユーキと、登場人物のモデルにもなった“玉川編集長”(仮名)に、編集部の熱い仕事ぶりを語ってもらった。(全2回の1回目/後編を読む)
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「体液まみれの原稿」が編集部に届いたことも…
――フランス書院をテーマにした漫画の企画は、どのように立ち上がったんですか?
玉川編集長(以下、玉川) 官能小説を読んだことのない若い方々に興味を持ってもらえるきっかけを作りたくて、編集部のほうから「こういう漫画を描いてくれませんか」とさとう先生に打診しました。漫画を通して新たな読者を獲得したいというのはもちろん、若い方に編集部で働いてもらえないかというリクルート的な狙いもありました。
さとうユーキ(以下、さとう) ラブコメ要素を入れる案もありましたが、結局はストレートなお仕事漫画になりました。玉川さんがまとめてくださった資料に対して僕が質問していく形で制作しましたが、強烈な話が次々と出てきて、コンパクトな内容にまとめるのに苦労しました。泣く泣く削ったエピソードもたくさんあります。
――さとう先生は、もともと官能小説を読んだ経験はありましたか?
さとう それがゼロなんですよ……! 制作を通して知ることの何もかもが衝撃的で、その驚きを漫画に反映させています。玉川さんが普通だと思っていることが、どれも全然普通じゃないんですよ。
玉川 編集部の内側の人間だと、どうしても「これは常識だろう」と思ってしまうので、さとう先生の素直な感覚はありがたかったです。
――「編集者たちが『ア●ルセックスでも妊娠は可能か?』と真剣に議論する」という内容の回に「実際のお話です」と添えてあったのに驚きました。
玉川 あとは「ダンボール3箱ぶんの官能小説を持っていた」というのは、(社員になる前の)いち読者だった頃の僕の話ですね。作中では、官能小説家のキャラのエピソードになっていましたが。
さとう そもそも漫画の中の“玉川編集長”は、玉川さんをモデルにしていますしね。エピソード自体はどれも実話をもとにしていますが、モデルにした人物に寄りすぎないように、いくつかの体験談を混ぜ合わせて描いています。
玉川 なので、「官能小説のコレクションを廃ビルに隠していた」という部分は、僕ではなく、ほかの作家さんの話です。
――なるほど。では、「『フランス書院文庫官能大賞』に体液まみれの投稿原稿が送られてきた」というのも実話ですか……?