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「なぜこの作家がつまらなくなったか」という長文のレポートを持参したら即スカウト…30年、官能小説を作り続ける“フランス書院編集長(51)”の超ユニーク人生

ナゾの出版社「フランス書院」インタビュー #2

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「フランス書院」の玉川編集長(仮名、51歳)は、新卒で同社に入社し、官能小説を作り続けて約30年。手がけた書籍は1000冊以上という唯一無二のキャリアを歩んでいる。

 小学5年生から官能小説を愛読するという彼に、「トレンドの変遷」や「常にスーツを着ている理由」などについて教えてもらった。(全2回の2回目/前編を読む)

1000冊以上の官能小説を作った“異端の人”玉川編集長のキャリアを追った ©杉山秀樹/文藝春秋

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入社のきっかけは「スカウト」

――玉川さんは、フランス書院で働いて何年くらいですか?

玉川編集長(以下、玉川) 新卒で入社して今51歳なので、30年くらいですね。

――なぜ新卒でフランス書院に?

玉川 僕はもともと官能小説が好きで、ダンボール3箱分ほどのコレクションを持っていました。特に某作家さんの大ファンだったんですが、あるときから作風が変わってしまって……。

 思わず「最近の◯◯先生は日和っている」みたいな手紙を編集部に送ったら、当時の社員に「ちょっと来い」と呼びつけられました。それで、「なぜこの作家がつまらなくなったか」という長文のレポートを持参したら、後日、「お前もうすぐ大学卒業だろう。うちで働いてみるか」と誘われて、卒業後そのまま入社しました。おもしろそうですし、小学5年生から官能小説に触れてきて、下手な編集者よりは読んでいる自信もありましたしね。

――小学5年生から!

マンガ『令和に官能小説作ってます フランス書院編集部物語』にも、編集長として登場 ©フランス書院

玉川 塾が始まる前にふと立ち寄った本屋で官能小説に出会い、衝撃を受けました。ゆるい時代だったので、おじいちゃんがやっているような古本屋だと、子どもでも普通に官能小説を買えたんですよね。

 あとフランス書院の本ってカバーを外すとシンプルなデザインで、タイトルもローマ字表記になっているんです。だからカバーがないと、難しい洋書みたいでしょう(笑)。あの店のおじいちゃんも、よくわからないまま僕に売ってくれていたんだと思います。

カバー外すと洋書のように見えるフランス書院文庫 ©杉山秀樹/文藝春秋

――その頃、同世代のあいだでメジャーなエロはなんだったんでしょうか?

玉川 まだインターネットはおろかAVもない時代で、エロ雑誌やエロ漫画が人気でした。でも仲間内で「なんのエロが好きか?」みたいな話ってしないじゃないですか。みんな言わないだけで僕と同じくらい官能小説を読んでいるだろうと思っていたのに、別にそういうわけでもないと大学生になってから知り、「自分はちょっと変わっているんじゃないか」と初めて気づきました。

――それだけ官能小説がお好きなら、自分で書いてみた経験はないんでしょうか?

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