「これ、捨てたらマズいものですよね」
2019年11月。台風19号の豪雨被害を受けた宮城県丸森町でボランティア活動をしていた時のことだ。被災ゴミを分別していた男性から、泥まみれの円筒のケースを手渡された。
見てみると、中にはびしょ濡れの軍人が被る帽子があった。裏蓋には船のいかりのマークが描かれている。おそらく、戦時中の海軍関係者の遺品なのだろう。濡れてしまってはいるが、70年ほど昔のものにしてはかなり保存状態も良好そうだ。
被災ゴミの回収を担っていた私は、この遺品を回収した家を把握していたので、海軍帽子をいったん、捨てずに持ち帰ることにした。
しかし、その方の自宅は水害で大きな被害を受け、海軍帽子を保管していた物置は跡形もなく流されていた。
「戻ってきたのはありがたいことだけど、ずいぶん前に隣の家の親類から預かったもので、私のものではないんです」
その家の高齢の女性も困惑した表情を浮かべた。隣の家を覗いてみたが人の気配はなく、詳細を聞き出すのは難しそうだった。だからといって、自宅が被災して途方にくれている女性に、拾った海軍帽子を無理やり押し付けるわけにもいかない。
「また戻って被災ゴミとして捨ててしまおうか」
そういう思いが頭の中をよぎった。しかし、手元にあるのは、間違いなく戦争に行った人の大切な遺品である。円筒のケースの中には、海軍帽子のほかにも肩章やベルト、小さな望遠鏡のようなものが収められていた。自分が戦地に行った証を大切に保管していたことは明らかである。
「これ、私が預かってもいいでしょうか?」
捨てられそうになっている海軍帽子を救い出すのも、その地に来たボランティアの役目ではないかと思った。これも何かの縁だと覚悟を決めて、泥だらけの海軍帽子を預かることにした。
この帽子は、どんな人の持ち物だったのだろう?
その際、家主の女性に海軍帽子の持ち主の情報を聞くことにした。しかるべきところに引き渡すにしても何かしらの手がかりは欲しいし、そもそもどんな人物だったのか興味が湧いたからだ。
・名前は「増間作郎」
・宮城県丸森町出身
・戦中、千葉県館山市の基地に配属