文春オンライン

「可愛い雰囲気でもないし、うまく笑えない。半分グレていました(笑)」憧れと現実のギャップに苦しんだ菊地凛子(42)を変えた約20年前の転機

菊地凛子インタビュー#1

2023/07/29

genre : エンタメ, 芸能

note

「アレハンドロ以上に厳しい監督はいない、と言われたけれど……」

――『バベル』への出演が決まり、撮影が始まったあとも、いつ役を降ろされるかわからない不安があったと聞きました。食べられない、眠れない日々が続いたと。

菊地 そうでしたね。アレハンドロは、究極的にいえば、犯罪を経験してないと犯罪者の役を演じられないなんてことはないとおっしゃって、最終的に決めていただきました。ただ、とにかく厳しい人なんです。普段の会話でも、私は彼に手話で話して、それを日本語に訳す人がいて、さらにそれを英語に訳してって、二重に通訳する人がいたくらいですから。

©榎本麻美/文藝春秋

 ひとつのカットを何テイクも撮る人だったし、撮影のあいだ中ずっと怖くて、次の日は呼ばれないかも……あ、今日も呼ばれたということを最後までくり返しました。撮影後に、アレハンドロ以上に厳しい監督はいないよって海外で励まされましたけど、そんなこともなかった(笑)。今になって思うのは、どんな現場も大変なことには変わりないんですよね。

ADVERTISEMENT

――結果として、菊地凛子の名前は海外の賞レースを席巻しました。高い評価を得て、演技に対して自信を深めることはできましたか?

菊地 いえ、全然。まずカンヌ国際映画祭でお披露目されたときに、私としてはそこで終わりだと思っていたんです。それから1年近くかけて、アカデミー賞へと続くレースが始まるなんて想像も付きませんでした。むしろいろいろな賞ですごい人たちと急に名前を並べられて、私はそんな役者じゃないのにって気おくれしていましたね。たまたまアレハンドロの作品だっただけだって、そういうふうに感じてしまう人間なので。

©榎本麻美/文藝春秋

――アカデミー賞で助演女優賞にノミネートされたときは、ケイト・ブランシェットやジェニファー・ハドソンらと一緒でした。

菊地 あのときも自分が彼女たちと同じ場所に立っているという意識はまったくなかったし、生半可な気持ちで彼女たちと並んだらいけないって、精神的には決してポジティブじゃなかったです。役者として、これからさらにちゃんとやらなきゃいけないんだって感じていました。

――『バベル』を経て、国内外で順調にキャリアを築いていきましたが、そのなかでも『ノルウェイの森』(2010)は重要な作品だったと思います。