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凶暴性やブランド嗜好、盗癖から生活が激変

 冒頭陳述や証拠によれば、広告代理店に勤める父と、同じ会社で派遣社員をしていた母・富士子被告との間に生まれた大悟被告は、父の海外赴任に伴い、英国の小学校を卒業した。のちに帰国しインターナショナルスクールに通う。その間、両親が離婚し、父が大悟被告の親権を持つ。母は英国に残り仕事を続けていたという。父子の二人暮らしは長くはなく、父の再婚により、大悟被告は寄宿舎から通学した。その後カナダの名門、ブリティッシュ・コロンビア大学に進学し、卒業後は外資系企業に勤める。同僚だった交際相手とペアローンを組み、共同名義で赤坂のマンションを購入。ふたりの間には2019年1月に長男も産まれた。

 誰の目にも順風満帆に見える暮らしぶりだ。だが被告の凶暴性やブランド嗜好、そして盗癖から、生活が激変していく。

 長男誕生のわずか3ヶ月後に「内妻への傷害罪で逮捕され、2019年10月、内妻が長男を連れて出てゆき、内縁状態の解消を求められた」(検察側冒頭陳述より)。以降、逮捕まで被告は赤坂のマンションに一人で暮らしていた。すぐに新たな恋人ができるが、養育費やローンの支払いをめぐり、内妻と調停中だった。被告は、赤坂のマンションを所有するため「内妻の残りのローンを買い取る」ことを主張した。このときはまだ、外資系企業に勤めていたため、銀行から借入をしても、返済できるという見通しはあったようだ。

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“身勝手すぎる動機”で伯母の殺害を画策

 2021年2月ごろには、内妻のローン買い取りのため、のちに放火殺人の被害者となった和彦さんに相談を持ちかけ、2500万円を借りたのだが、同月、またもや逮捕された。会社の金庫から盗みを働いたためだった。これにより、懲戒解雇となる。

「被告人は、マンションの買取資金の一部について銀行から借入をしようと思っていたため、収入が途絶え、持分の買い取りが困難になった。追加の資金援助として和彦さんからさらに1000万円を借りたが、不安を感じていた」(同前)

富士子被告の住む家と姉の家は同じ敷地内にあった ©高橋ユキ

 ちょうどこの頃、母である富士子被告から「リバースモーゲージ」という制度の存在を聞く。自宅に住みながら、自宅を担保に毎月の生活費を借りるという仕組みだ。契約者が亡くなったあとに、不動産の売却代金で元金を返済する。富士子被告の住む家と、殺人の被害者である旬子さんの住む家は同じ敷地内にあった。敷地から旬子さんや富士子被告の実母が立ち退けば、土地建物を担保に4000万円の融資が受けられる可能性がある……。そう富士子被告から聞いた大悟被告は、制度を利用して母に融資を受けさせ、自分が金銭を得ようと考えるようになる。そのために旬子さんを殺害することを計画した。