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「これは『昭和天皇独白録』と同じくらいの衝撃だ」歴史的スクープを後押しした、昭和史研究家・半藤一利の言葉とは

半藤一利さんの思い出を語る #1

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 昭和史, 歴史

note

戸髙 特に軍人とか官僚とか頭のいい人の文章は上手で、話がきれいにまとまっているんです。でも資料を作った本人に話を聞くと、事実関係は同じでも、なんというか、感情の部分で違うことが多い。

  だから、「この資料を作った人はどんなキャラクターか、どんな環境でどんな気持ちで作ったのか」まで考えて初めて理解できることがある。歴史を知るということは、その舞台にいた人間を知ることなんです。

 ただ、歴史の抗いがたい事実として、直接の関係者はどんどん亡くなってしまう。そうしたらもう何もわからなくなるのかと言えば、これはまた違うんです。だって戦国時代から何百年経った今になっても、新しい事実が発見されるじゃないですか。

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 いくら時間が経っても、残された資料を勉強し、しっかり解析することで、まだまだ発見する余地がたくさんある。そこに歴史研究の存在理由があるという意識を持っています。

「真実」は解明されているのか

保阪 資料は完璧だし、歴史的な事実としては解明されているけれど、果たして「真実」は解明されているのか。それを考えることが、歴史探偵団のテーマとしてあるんですね。

 半藤さんからの申し送りのテーマで一つ例をあげます。昭和20年8月14日正午から15日正午までの日本政府と陸軍の動きを活写した半藤さんの著作『日本のいちばん長い日』が1967年に映画になった時、試写会を元陸軍省軍事課の将校たちが見に来たんです。

 半藤さんが取材した有名な将校なんですが、その二人が帰り際に、周りに誰もいないと思って「おい、あの件はまだわかってないな」「わからないんだな」と話していたというんです。後ろを歩いていた半藤さんはそれを偶然耳にして、ピンときたと。「8月15日はあの段階で終わるつもりじゃなかった。陸軍省の将校たちはもっととんでもなく大きなことを考えていたんだ」――。

「日本のいちばん長い日」創作メモ。半藤さんが関係者の談話をもとにまとめた ©昭和館

 だけど資料もない、関係者も亡くなっている、じゃあどうするか。我々がしなくてはいけないのは、あらゆる資料を読んだ中で、資料が匂わせていることを感じ、不自然さに気づくこと。そこから新しい事実を見出して、それを真実化していくということなんです。そういう真実を探し出したとき、昭和史はもっと複雑なあやを備えているということを自覚できるだろうと。

 私たちが成し遂げられないかもしれないけれど、次の世代に伝えていくことによって、昭和20年8月15日の日本はもっと凄いことが起ころうとした日になるだろうと信じています。探偵団の役割は、日本の歴史の検証の仕方そのものを問うていくことでもあると思っているんです。

日本のいちばん長い日 決定版 (文春文庫)

日本のいちばん長い日 決定版 (文春文庫)

半藤 一利

文藝春秋

2006年7月7日 発売

「これは『昭和天皇独白録』と同じくらいの衝撃だ」歴史的スクープを後押しした、昭和史研究家・半藤一利の言葉とは

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