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「これは『昭和天皇独白録』と同じくらいの衝撃だ」歴史的スクープを後押しした、昭和史研究家・半藤一利の言葉とは

半藤一利さんの思い出を語る #1

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 昭和史, 歴史

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日本のいちばん長い日』『聖断』などの著者で昭和史研究家の半藤一利さんの足跡を辿る特別企画展「歴史探偵 半藤一利展」が九段下の昭和館で9月3日まで開催されている。

 半藤さんと仲間の歴史研究者たちとの月1回の集い「歴史探偵団」は30年の歴史を誇る。探偵団メンバーである保阪正康さん、戸髙一成さん、井上亮さんの3人が、団長・半藤さんから託された大きな宿題を語り合う。(全2回の1回目/続きを読む)

半藤一利さん ©文藝春秋

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戸髙 半藤さんは文藝春秋入社以来、旧軍人の取材をすることが多く貴重な証言に接してこられましたし、歴史研究者との交流も多く、中でも東大ボート部以来のご友人・秦郁彦氏、中央公論「歴史と人物」編集長の横山恵一氏とは銀座のバーに頻繁に集まっては、雑誌の企画や歴史談議に時を過ごしていました。

 私は当時、海軍関係の史料を収集する「財団法人史料調査会」で司書として勤務していた関係で、時折この集まりに呼ばれていました。私の記録によれば、1992年6月9日、文藝春秋社近くの「二葉鮨」で半藤さんが「ひとつこのメンバーで歴史探偵団ってのをやらねえか。もちろん団長は俺だな」と言い出したのが始まり。

 ここからほぼ毎月途絶えることなく、2021年に半藤団長がお亡くなりになったあとも活動を続けて、今年は「歴史探偵団」結成32年目になりました。難しい話をするのではなく、歴史上の話題に関して興味の赴くままに談笑し、酒を呑む。時折ゲストを呼んでは話の輪を広げる。よくぞ続いたと思いますが、これも半藤さんのお人柄と求心力ですね。

半藤さんがつくった会話のリズム

保阪 初めて私が半藤さんのご面識を得たのが昭和50年代のはじめ、半藤さんは「文藝春秋」の編集長でした。物書きにとっては殿上人でした(笑)が、半藤さんが会社をお辞めになってからは対談や座談会で何度もご一緒して、深く話し合うようになりました。

 人と人が会話する時に大事なのは「呼気と吸気」ですよね。こちらの呼吸の切れ時に相手の言葉は入ってくる、その入り方がごく自然な人とは、話しやすいんですよ。半藤さんとはその呼吸がよく合っていて、半藤さんも「おい、おまえとはなんか合うなあ」って。

2017年7月26日歴史探偵団の会合。左から、半藤一利、戸髙一成、照沼康孝、井上亮、保阪正康、秦郁彦

 ある時、「こいつとはもう二度と対談しないぞ、っていう経験あるか」と半藤さんに聞かれたので「あります」「じゃ、そいつの名前を同時に言おう」ってことになった。そしたら……同じ人だったんです(笑)。「一緒じゃないか! じゃあもう一人」って言い合ったら、これもまた一致。

 対談したくない人っていうのは、つまりは呼気と吸気の間の取り方が下手なんですよね。我を通すというのかな……話す内容は高度で面白いし、人間的にはとても良い人なんだけど。やっぱりお互いのリズムをとるのは大事なことで、半藤さんはそれがものすごく上手い方でしたよ。歴史探偵団には半藤さんがつくったリズムがあり、みんなが自然に楽しく、話が深くなっていく空気がありました。