文春オンライン

「空襲の中を逃げ回るのに比べたら、何倍も良いよ」と…「歴史探偵団」が振り返る、半藤一利さんが遺した“教え”

半藤一利さんの思い出を語る #2

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 昭和史, 歴史

note

日本のいちばん長い日』『聖断』などの著者で昭和史研究家の半藤一利さんの足跡を辿る特別企画展「歴史探偵 半藤一利展」が九段下の昭和館で9月3日まで開催されている。

 半藤さんと仲間の歴史研究者たちとの月1回の集い「歴史探偵団」は30年の歴史を誇る。探偵団メンバーである保阪正康さん、戸髙一成さん、井上亮さんの3人が、団長・半藤さんから託された大きな宿題を語り合う。(全2回の2回目/最初から読む)

半藤一利さん ©文藝春秋

◆◆◆

ADVERTISEMENT

保阪 共同通信のワシントン支局長をされていた松尾文夫さん、この方がゲストでいらっしゃった時は非常に楽しいし、探偵団に大いに刺激を与えてくれました。2・26事件の時、岡田啓介に間違われて殺害された松尾伝蔵の息子の陸軍大佐・松尾新一さんのご長男です。

 彼は報道の場を離れても、自分の役割として、日米首脳による相互献花の実現を熱心に進めたんです。日本の首相が真珠湾のアリゾナを訪ねて花束を渡す、アメリカ大統領が広島の原爆資料館を訪ねる、そういうことですね。

 4年前にアメリカで亡くなったんですが、行く前に電話もらって、その時には「次は日本と朝鮮のことを調べたい。テーマはいっぱいあるんだよ、とにかくアメリカでそういった資料をたくさん見てくるよ」って。

井上 私にとっても、松尾さんは尊敬すべき大先輩のジャーナリストです。保阪さんが言われたように、「戦争の決着をつけなくちゃならん」と情熱を持っていらして、85歳のときに「ハングルを習い始めたんだ、相手側の文献を読みたいから」って。松尾さんて本当にすごい人だなと思いました。令和に替わる直前の平成31年2月に亡くなったんですが、まるで平成を見送るように逝かれたな、という気持ちがしました。

 松尾さんは上皇さまの学友でもあって、学習院の寮では1年あまり同じ部屋で過ごしたんですよ。上皇さまのかけがえのない親友だったと思います。寮で暮らしているころは、上皇さまの「行動記録」をつけていたようですね。一種の監視役です。宮内庁から頼まれたんでしょう。トイレの時間まで記録していたそうですよ(笑)。

©文藝春秋

 ……松尾さんは、ジャーナリストでありながら上皇さまとの関係を一切言わないし書かなかった。探偵団でもめったに上皇さまのことは話さなかったんですけど、私のことは口が固いと思ってくれたのか、「オフレコだよ」と言っていろいろ話してくれました。

 もちろん今でもすべては言えませんが、さしさわりのない話を紹介しますと、「天皇陛下(上皇さま)はものすごく意志の強い人だ」「強い男だ」という話は何度も聞きました。「美智子さまという素晴らしい伴侶に支えられて……と言われることが多いが、天皇陛下の中身はそんなもんじゃない。陛下個人の資質があってこそ、あの素晴らしい平成の象徴天皇像を作られたんだ」と。

 実は松尾さんは、現天皇陛下のことを心配されていました。「ナイスガイだけど、お父さんほどの強さがないんだよな」と。美智子さまも「ナルちゃんは大丈夫かしら、人と会話が続かないようなのよね」とおっしゃっていて……というようなエピソードをいろいろ伺いました。