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「空襲の中を逃げ回るのに比べたら、何倍も良いよ」と…「歴史探偵団」が振り返る、半藤一利さんが遺した“教え”

半藤一利さんの思い出を語る #2

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 昭和史, 歴史

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「戦後よく言われるのが…」

戸髙 海軍中佐で、終戦時は連合艦隊参謀だった千早正隆さんもゲストでお呼びしましたね。この方は語学に強くて、戦後早い時期からGHQのスタッフになっていました。真珠湾攻撃を書いた一番有名な本『トラトラトラ』の著者プランゲさんが日本で取材するときに手伝ったりしています。

 彼は日本の海軍に対しては極めて厳しい評価を下していて、「とんでもない組織だった」ということもよく書いていたわけですが、事実関係に関しては非常に冷静。自分の体験を語るときも、脚色は一切なく、淡々と発言されてました。

 千早さんも、他の一部の海軍士官の方々も「海軍というのは本当に腹が立つくらいダメな組織だとわかっていても、自分の魂はやっぱり海軍士官なんだと思う」って、似たようなことを言われているんですね。

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「戦後よく言われるのが『絶対に勝てないアメリカと戦争したなんて馬鹿だ』と、その通りなんだけど、受け入れられない気持ちになるんだ。国の存亡にかかわる問題になった時、勝てるか勝てないかとは違うレベルで決意することもあるんだ」っておっしゃるのを聞いていると、やはり戦後の価値観でさかのぼって当時の人の考えを理解しようとする危うさ、簡単に判断を下すことの間違いを感じました。

戸髙一成さん ©文藝春秋

保阪 千早さんは、戦後すぐ『日本海軍の反省点』という貴重な本を書かれました。陸軍にも、堀栄三さんという大本営の情報参謀だった方がいまして、彼も戦争から帰ってきてすぐノート5冊くらいに「日本の情報戦は大間違いだ」、という原稿を書いたんですね。

 それを私たちが読んで、やはりとても面白いので、文春で『大本営参謀の情報戦記』という本を出しました。この本は文春文庫で今でもよく売れています。

 千早さんにしても堀さんにしても、帰ってきてすぐに書いたものですから、怒りは生々しく入っているし、記憶に新しい事実がきちんと記されているんです。こういう資料をどれくらい入手して読みこなせるか。半藤さんはそのための道筋を作ってくれました。そのノウハウを私たちが次の世代に伝えなくてはなりません。