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「空襲の中を逃げ回るのに比べたら、何倍も良いよ」と…「歴史探偵団」が振り返る、半藤一利さんが遺した“教え”

半藤一利さんの思い出を語る #2

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 昭和史, 歴史

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心に残っている、半藤さんの言葉

保阪 今月、ある新聞の企画で3人立て続けに対談をやったんです。僕はいま83歳ですけど、3人は30代。そのうち2人は女性。3人とも、戦争体験をどういう風に残すかということの前線で頑張っている人たちです。もちろん僕は半藤さんから教わったことを伝えるんですが、彼らにとっての太平洋戦争って、僕らにとっての日清戦争くらい遠いんだということを感じますね。

保阪正康さん ©文藝春秋

 そして、私が不思議な気持ちになるのは、女性が戦争というテーマに興味を持って研究していくということ。時代が変わっていると感じます。言い方が難しいんですが、結婚したり育児したりという生活を持ちながら女性がこれから、戦争を語り継いでいくというのは、私たち男が作ってきた戦争観とは全く違うでしょう。きっと画期的な変化を生んでいくと思います。

 半藤さんに「今、こんな時代になってるよ」って伝えたいですね。おそらく半藤さんは、大いに喜ぶと同時に「それだったらこういうテーマがあるよ」ってたちどころに3つくらい企画を言うだろうな、それは何かな、と考えます。

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戸髙 半藤さんの名言的な言葉って全然記憶にないんですけど(笑)、忘れられない言葉があります。昭和の末くらいだったかな、探偵団で花見をしたんです。向島の料亭で、隅田川沿いの桜を眺めてお酒飲んで……でも、ちょうど桜の上に高速道路が有って、時々トラックが走る、ちょっと興ざめな所もあるのですが。

 気が付いたら半藤さん、一人のおばあちゃん芸者さんと延々話し込んでいて、「東京大空襲で俺も向島の辺りを命からがら逃げ回ってた」なんて言ってるんです。

 探偵団でもご自分の戦争体験はまったくお話しにならなかったんですよ。晩年に、これは言っておかなければ、という使命感で話すようになったんだと思いますけども、おそらく、口にするのもおぞましい辛い体験だったんじゃないかな……。

「桜の上に高速道路なんて、変な世の中になっちゃったね。でも、空襲の中を逃げ回るのに比べたら、何倍も良いよ」って、その言葉がいちばん心に残っています。