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突然やってきた破綻の瞬間

 終焉は突然にやってきた。

 ある日、仕事から帰宅すると、滞った返済の「督促はがき」が自宅に届いていた。消費者金融数社への借金は総額250万円になっていた。それを見つけた妻は激怒した。パチスロへの病的な依存、それに借金癖が妻の両親、親戚全員に知られてしまった。

「何をやっているんだ! お前は警察官だろう」

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 誰もがそう責め立てた。

 結果的には、前回同様に自分の親が借金を肩代わりしてくれた。だが、もう警察にはいられないと思い込み、退職願を出した。違法行為に手を出したり、消費者金融のブラックリストに載ったりしたわけではないので、本来なら仕事を辞める必要はない。辞めたくはなかったが、ほかの選択肢が思いつかなかったのは、ケイの生真面目さなのか、それとも、かぶり続けていた仮面をはぎとられた決まり悪さゆえだったのか。

 妻に対する、うそと裏切りの代償は、結婚生活の清算で支払うことになった。ゼロに戻った借金と引き換えに、ケイは仕事、そして妻子を一度に失った。

 *

 しばらく実家に戻って、家業の漁業を手伝って過ごした。

 居心地がいいはずはない。親の目は冷たく、それから逃れようと、ぶらぶらと外に出れば、いやでも県警のパトカーが目に入る。

 次に疑心暗鬼が押し寄せてきた。近所の人たちから「仕事を辞めて、離婚した元警察官」と後ろ指をさされているのではないか、と。実際には、そんなことはなかったかもしれない。だが、逆の立場だったら、自分のような人間に、斜め上から見下した視線を向けていたはずだった。相変わらず、人を勝ち負け、上下関係などで、表層的に判断する人間なのだ。

 身から出た錆と、最初は多少、割り切ってはいたものの、時間とともに心境は変わっていく。徐々に「なんでオレがこんな目に遭わなければならないんだ」と身勝手な考えへと変化していった。生真面目だった性格が、徐々に荒み始めていた。

 変わっていくわが子を心配した母親から、九州北部のある病院へ入院を勧められた。ギャンブル依存の治療を行っているという。

 入院だと? ふざけるな! 自分は病気じゃない。治療の必要などどこにある──。

 そう考える一方で、居心地の悪い実家での生活はいたたまれなくなっていた。「ここではないどこか」に行きたかった。素直に母親に従ったふりをして、現実逃避のための入院を決めた。