ある人がギャンブルへと追い立てられ、依存にまで至ってしまうのはなぜか。長年にわたって医療の現場を歩いてきた染谷一さんが、当事者たちを取材した『ギャンブル依存』(平凡社)より一部を抜粋して紹介する。
出身地である九州の国立大学経済学部を卒業したケイ(仮名)さんだが、24歳の時に結婚した女性の父が元警官で、親類にも警察関係者が多かったため、自らも26歳で地元県警の採用試験に合格した。
真面目で正義感が強い。そんな警察官が、どうしてギャンブル依存に陥ってしまったのか。実はケイさんは大学生の時にも一度、パチスロで150万円の借金を作り、親に返済してもらった過去があった。そして、2度目の過ちを犯してしまったのは、彼が30歳の時だ――。(全2回の1回目/後編を読む)
◆◆◆
「同じ過ちは繰り返さない」
ある休日、ケイは雑用を片づけに警察署に出向き、帰宅途中に「1円パチンコ」と書かれたのぼりが風にたなびいている店の前で足を止めた。
このレートなら大丈夫。同じ過ちは繰り返さない。
かつての痛い思い出は、時間とともに薄れていた。「もうあの頃の自分ではない」。自信を持ってそう言えた。ケイは30歳になっていた。社会人としても、家庭人としても分別をわきまえ、生活も思考も落ち着いていく年回りだ。「できちゃった婚」で授かった子どももどんどん成長していく。もちろん、刑事としての責任感だってしっかりと背負っているつもりだった。
ところが、パチンコ店の自動ドアの向こう側で待ち受けていたのは、けたたましい電子音、容赦なく目を傷めつけてくるたばこの煙、それに刑事としての立場や家族までも奪い取る、泥沼の未来だった。
*
独特の喧騒のなかに足を踏み入れたのは何年ぶりだろうか。お試しのつもりで座った1円パチスロ台は、確かに少ない「出資」でそれなりに遊ぶことができた。賭ける金額は少なくても、手に伝わってくるスロットの感触、大当たりフラグである「リーチ目」を見たときのちょっとした興奮、短時間で手元のコインが増えていく高揚感……、あのころのように、すべてを存分に楽しんだ。儲かる、儲からないは二の次、恰好の仕事の息抜きとなった。
うん、大丈夫。ゲームセンターのようなものだ。
以降、仕事や家族から離れ、自分の時間を味わうために、ときおり、1円パチスロに出かけるようになっていった。