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 患者側に治そうとする意志はないのだから、病院に入っても治療の効果が出るはずはない。明らかにムダな入院生活だったが、遠く兵庫県から来ていた女性に病棟で出会った。

 自分と同様、彼女もパチンコへの依存で入院させられていた。似たもの同士、すぐに親しくなり、男女として付き合うようになった。

 数週間もの意味のない入院生活を終え、地元に帰ったが、実家にいたくない気持ちは、かえって強くなっていた。ここから出たい。すべてリセットしたい。知らない土地で彼女と一緒にやり直せば、絶対に自分はうまくいく。

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 そう確信して、荷物をまとめた。自宅を出る前、親が掛けてくれていた自分名義の保険をすべて解約し、保険会社から支払われた入院給付金と一緒に自分の銀行口座に移しておいた。

生きる目的はパチスロだけに

 地元を後にすると、兵庫県に直行して、彼女が住むアパートに転がり込んだ。自分の口座には総額で120万円ぐらいあった。当座の生活資金としては十分な額だ。まもなく自分名義で神戸市内のマンションを借り、彼女がそこに引っ越してきた。金があるうちに仕事を見つけて、2人でやり直せばいい。ここからスタート・オーバーだ。

 だが……。

 皮肉にも、手元に現金がある余裕が、ギャンブル依存という名の疾病を持つ2人から、真剣に仕事を探す意欲を奪っていった。毎日、2人でパチンコ店に入り浸り、自堕落な生活を続けていた。手持ちの現金は減っていき、いよいよとなったところで、時給の高そうなパチンコ店でバイトを始めた。先々のビジョンがまったくない生活は1年弱も続いた。

 彼女との関係が終わりを告げたのは突然だった。激しい言い争いがきっかけとなって、彼女がマンションを出て行った。

 独りぼっちになった。バイトは続けていたが、生活はさらに荒れた。長く放置した悪性腫瘍のように、病魔はケイのすべてをむしばんでいった。少し前まで、地域の安全を守るという目的のために必死になっていたのに、ケイが生きている理由はパチスロを打つことだけだった。バイトの時間以外にはやることがないので、結局、パチンコ店に入り浸る。

 間もなく、手持ちの金は尽き、家賃さえも払えなくなった。本当の自暴自棄になり、最後のバイト代を手にマンションを出た。

 かつて犯罪を取り締まり、書類送検する側だったケイが、書店での万引きで捕まり、検察に送られたのは1か月後のことだった。