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「国宝」と呼ばれた千鶴子の能力

 同年4月、今村は福來と打ち合わせてともに千鶴子に実験を行った。4月24日付萬朝報には「心理学上の國寶(国宝) 福來博士の實驗(実験)せし千里眼」の記事が。「文学博士、福來友吉氏は千里眼の名がある陸軍中尉夫人、千鶴子について、さる10日より5日間、実験を行い、20日帰京した」とし、福來の談話として次のように続く。

「京都大学の今村博士とともに午前中、千鶴子の心を平静にさせ、それより実験に着手した。彼女は早くて1分間、遅くとも十数分間のうちに無念無想に入り、名刺の入った木、石、金属の箱を取り換えては透視。名刺の文字をことごとく当てた。はじめは実際の視力が催眠状態に入ったためと思ったため、さらに持参の試験機を使用した結果、それは実際の視力ではなく、一種の感覚で、不思議な能力を持つ者であることが分かった。心理学上の参考例としては実に国宝と呼ぶべきもので、心理学上の新記録というべきだ」

 この実験については翌4月25日付東朝も「天眼通の研究」の見出しで報道(※「天眼通」は仏教用語で千里眼のこと)。実験方法について、「名刺を錫製の茶壷か、錫製の二重蓋の茶入れ、または鉄瓶の中に入れ、密閉して中の名刺の文字を読ませた」と書く。

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 5月10日付読売には1面に福來の署名記事で「千里眼婦人の實驗(実験)」という記事が載っている。そこでは千里眼の例として、梅の木の虫の話以外に(1)医学校で肺のジストマ菌の標本を見て「さっき会った人に同じものがあった」と言い、調べると、その人もジストマ菌を持っていた(2)井芹の妊娠中の妻の腹を見て男の子か女の子かを言い当てた――ことがうわさとして挙げられている。ただ、ここで福來ものちに問題となる千鶴子の言動を書き留めている。