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日本中で知名度を上げた千鶴子。一目見ようと、駅には人が殺到

 名古屋では、地元紙、名古屋新聞(中日新聞の前身の1つ)が9日付で「千里眼婦人來る」という記事を掲載。その中で千鶴子の「療法」について記している。

 当市では従来から女史の遠隔治療を受けている関係上、百春楼の主人、知事の令息・深野亮氏、瀧定助氏の令息・弘三郎氏らのため、昨日(8日)は1回、本日は2回の精神治療をし、なお服部小十郎氏らもその治療を受けるはず。

 女史の療法は、ただ患者4~5人を並べて無我の境に入らせ、患部の辺りを軽く触れるようにして、女史もまた無我の境に入る。精神の統一から少しずつ治療に至る。遠隔治療も、時間を決めて女史と患者が遠距離で互いに目をつぶり、天地宇宙に合体して初めてその治療の意思を通じる。この方法は成績が顕著で、目下各地で受けている者が何百人といるそうだ。

「千里眼婦人来る」と見出しを打った名古屋新聞

「百春楼」は有名な料亭で、愛知県知事は内務官僚の深野一三。瀧定助は名古屋の大商人で、服部小十郎は実業家で国会議員だった。地方の名士やその親族の間に千鶴子の「療法」が広がっていたことがうかがえる。いまから見るといかがわしいようにも思えるが、こうしたことは法令に引っかからなければ信じる者次第。「千里眼の醫療(医療)」が見出しの9月11日付東京日日(東日=現毎日新聞)は、腹膜炎が治ったという証言を紹介した後に、福來がこうくぎを刺したと書いている。

「千鶴子の透視が病気そのものに効果があるとは肯定し難い。千鶴子の透視法は患者の精神に非常な慰安を与えて、患者を精神的に快方に向かわせるということはあるだろうが」
「千鶴子の透視は、医師が患者に投薬する以前、その患部について診察するのに効果がある」
「病気そのものを直ちに治療するのではなく、病気の治療を助けて多大の効果がある」

「これは私だけでなく、誰にもなし得ること」

 9月10日付読売「千里眼婦人入京」の記事には、9日に新橋駅に着いた千鶴子の印象を記者が書き留めている。「中肉中背でひさし髪に結い、糸織矢絣の着物に厚板の夏帯を締め、手に薄ねずみ色のこうもり傘を携えている。一見、質実な田舎の令嬢ふう」。その場には「世にも珍しい千里眼婦人を見ようと、列車が着く前から改札口に群衆が集まり、新聞の写真と見比べて、あれかこれかとひしめき合っていた」。記者が透視について問うと千鶴子は、こう話した。

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「気を静めていれば、ありありと物が見える。これは私だけでなく、誰にも成し得ることだと思う」

 そして千鶴子は、名だたる研究者たちの前で、“超能力”の実験を披露することとなる――。