親分が飲み屋に入ったスキに覚せい剤の営業で稼ぐ
――親分といるときは、カバン持ちに徹していた?
諸橋 いや、これがやっちゃってたんですよ。親分が飲み屋に入ったら、店の外で2時間くらい待つわけですよね。その間に「いま、渋谷のどこそこの飲み屋の前にいるから欲しかったら来なよ」って携帯で営業するんです。
さすがに品物を持ったままで親分といるわけにもいかないし、外でブラブラしているのも危ないので、シャブが置いてある倉庫に若い衆を待機させて「持ってきて」と言って持ってきてもらって、僕がお客に売るんです。若い衆に倉庫から出させて、そのまま直で売らせてしまうと、僕のビジネスが取られかねないんで。
この2時間ぐらいでもお客がバンバンやってきて、そのへんで僕とお客の売買を見ていたキャッチの連中が「俺もほしいんすけど」って近づいてきて、また売れるんですよ。
――月に200万~300万円も売り上げていたとのことですが、他の売人と比べて何か特別なことはしていたのでしょうか。
諸橋 ディスカウントはしませんでしたけどね。いろいろなラインナップを用意して、さまざまなニーズに応えるようにはしていました。
0.1グラムで5000円のパケは、週に100個くらい売れましたね。0.1グラムだと1回半程度の使用量なので、物足りなくなってその日のうちにまた買いに来てくれる。買う側からしたら手頃な値段で、売る側からすればリピート率が高いので良い商品でしたね。
注射で味見をするうちに覚せい剤に溺れて
――パケに分ける作業が大変そうですが、そこは誰かに任せていたのですか。
諸橋 いや、自分でやってました。バイトを雇ったりしたこともあったけど、誰もできなくて。というより、作業しないでシャブを嗜んじゃうんですよ。やっぱり、目の前にシャブがあったら、やらないということができないんですね。
シャブをやったことがないという人にやらせたこともあったんですけど、結果的にシャブ中になっちゃいましたね。そういうものなんですよ。
だから自分で小分けしたけど、僕も作業しながらシャブを使うことがありました。
――結果的に、覚醒剤を注射で打つようになったそうですね。
諸橋 きっかけは、味見。質のいいものを仕入れるためには、アブリと注射の両方できちんと味見する必要がありました。
注射ユーザーから「うんともすんともこない」ってクレームを言われたんですよ。アブリだと味はいいのに、注射するとなんともないっていう。両方のユーザーから支持されないとマズイなってことで、注射でも味見をするうちに溺れたと。
その挙げ句にシャブで頭がおかしくなって、渋谷のスクランブル交差点で勝手に交通整理をやってパクられるんです。(#3に続く)
写真=石川啓次/文藝春秋