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連載地方は消滅しない

2018/03/21

 食材は地元産を中心に使い、だしをしっかり取る。伝統的な料理法もきちんと教える。

 その一例が伊勢いもだろう。「おじいちゃん、おばあちゃんが食べてきた、とろろ汁が一番うまいんです。多気町に高校があるのだから、創作料理を作るより、それを伝えるのが使命です」と言い切る。

 だが、実習授業は1週間に2日、計5時間しかなく、「せっかく覚えたことが身につかない」。そこで補習を始めたが、「補習は補習でしかなかった」。このため95年、調理クラブを作った。調理師コースはほとんどの生徒がこのクラブに入る。午後3時半に集まり、午後9時ごろまで技術を磨く。

 こうして修練を積んだ生徒にほれ込んだ人がいた。皇學館大学教授の岸川政之さん(60)だ。かつて役場で働いていた岸川さんは02年、地元農産物のイベントで試食会を開いた。その調理を生徒に頼んだのだ。

「スーパーの試食程度をイメージしていました。ところが出来上がったのは、結婚式の披露宴に出せるほどの料理だったのです。また、会場では頼みもしないのに、生徒が大きな声で産品をPRしてくれました」

 感動した岸川さんは高校に通いつめた。そして、村林さんや生徒と一緒に、伊勢いもを練り込んだうどんを開発するなどした。

 そんなある日、村林さんから「学校ではどうしても教えられないことが2つある。それは接客とコスト管理だ」と聞いた。「『高校生の店』が持てたら、それが学べる」。2人は夢を語り合った。

 町内には役場が建設した「五桂(ごかつら)池ふるさと村」という体験型レジャー施設があり、地元自治会が運営している。岸川さんはここに「高校生の店」を開けないかと考えた。自治会に打診すると「高校生で商売をしたくない」と拒まれた。諦めずに頼み続けると、ふるさと村の食堂で夏休みのアルバイトをさせてくれた。

 高校生の実力は自治会の人々も感動させた。自治会は「高校生の店」を開くと決め、自動販売機コーナーを改造してくれた。名付けて「まごの店」。ふるさと村には農産物の直売所「おばあちゃんの店」があったからだ。高校生は孫のような存在だった。

配膳も当番の高校生が行う(まごの店)

 屋根と柱だけの屋台のような店舗。メニューは、伊勢いもを練り込んだうどんと、豆腐田楽だけ。それでも客は殺到した。

 町が本格的なレストランを建てたのは、それから2年4カ月後だ。設計は県内に4校ある工業高校の参加でコンペを行った。そして、日本で初めての「高校生レストラン」ができた。