吹きすさぶ風にみぞれが混じる。このような日には、客足が鈍るはずだ。そんな心配をしながら訪れると、開店の1時間半前だというのに、もう順番待ちができていた。
三重県多気(たき)町。同県中央部に位置する人口1万5000人弱のまちだ。
ここには「まごの店」という土日祝日の昼しか開かない料理店がある。同県立相可(おうか)高校の調理クラブが運営する「高校生レストラン」だ。2005年2月にオープンした。
生徒が切り盛りしているので、学校行事や定期試験、インフルエンザの流行で休むことがある。メニューも、同町特産の山いもの一種、伊勢いもを練り込んだうどんの定食や、松阪牛を使った茶漬け定食など、凝ってはいるが、4種類しかない。しかも、2月中旬から一律200円値上げして1500円にした。にもかかわらず、午前10時半の開店と同時に満席になる。私が訪れた日には、用意した120食が正午過ぎに売り切れた。最大330食を完売したことがあるというから尋常ではない。
これほどの人気店が、三重県内に何店あるだろうか。
「だしがいいから、薄味なのにすごく美味しい」(40代女性)
「熱々で出てきて、食べ終わるまで冷めなかった」(70代女性)
客は口々に料理を称賛する。
顧問の村林新吾教諭(57)は、辻調理師専門学校(大阪市)で10年間教えたプロ中のプロだ。テレビの料理番組で調理助手を務めた経験もある。その村林さんの指導なのだから、美味しいのは当然だろう。
だが、客を見ていると、人々が熱い視線を注いでいるのは、かいがいしく働く高校生だ。調理場で天ぷらを揚げる姿は席からモニターで見ることができる。配膳や会計のフロアー係も生徒が交代で行う。
はきはきしていて、明るい。礼儀正しい。髪を短く切っていて、清潔感あふれる。今どきの高校生には珍しい「高校生らしさ」だ。
客は料理のみならず、「高校生らしさ」を味わいに来ているのではなかろうか、と思うほどだ。
ただし、このレストランができるまでには、長い道程があった。
相可高校で食物調理科が発足したのは1994年だ。家政科の受験者数が減って、科を改編した。定員40人。調理師コースと製菓コースの20人ずつに分かれている。
同科ができると同時に、村林さんが着任した。新設科で教えるために辻調理師専門学校を辞めて、県の教員試験を受けたのだ。一流の料理人が正規の教員として教える学校は多くない。ちなみに村林さんは多気町の隣の松阪市の料理店で生まれた。
村林さんは、基礎をしっかり教える。調理場を清潔に保つために身なりなどを整えさせ、1本のキュウリを30秒で50枚に切らせる。
「料理は華やかな仕事ばかりではありません。例えばキャベツを進んで千切りする子は伸びます。キャベツを切るのは割と難しいんですよ」と、村林さんは笑う。