果たして7月1日、OSO18は上チャンベツの襲撃現場付近に戻ってきたが、牛を襲うことはなかった。警戒心の強いOSOのことだから、「OSO18特別対策班」リーダーの藤本靖らの厳戒態勢を敏感に察知したのかもしれない。次に藤本らがOSOの動きをキャッチするのは7月16日、アレキナイから上尾幌方面へと向かう足跡だった。
位置関係としては、北から上チャンベツ―中チャンベツーアレキナイ―上尾幌となっており、OSOは大型のクマが多数いるという〈中チャンベツからアレキナイ〉をスルーするように一気に南に下ったことになる。(全2回の2回目/前編から続く)
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ライフルで首に1発、頭に2発
「16日以降の足取りは不明でしたが、これまでのOSOの行動形態からすると、恐らくオボロ川を通って(駆除)現場まで南下したんでしょう。アレキナイからまっすぐ下ると今回の現場です」(藤本)
それにしても改めて驚かされるのはヒグマを獲ったのは初めてというハンターの冷静さだ。距離80メートルといえば、もし初弾で仕留めきれなかった場合、一瞬で反撃を食らう距離である。役場の職員という立場上か、このハンターがメディアの取材に応じる予定はないというが、かわりに釧路町役場の担当者が当時の状況をこう説明する。
「使った銃は(散弾銃ではなく)ライフルです。最初に80メートルの距離から首に1発撃ち込み、それから近付いて“トメ(トドメ)サシ”で頭に2発、計3発ですね」
※銃の所持許可の関係上、所持から10年未満の者は一般狩猟においてライフル銃の所持ができない。しかし自治体が行う有害駆除防除隊による駆除の場合、目的とされる有害獣に対してのみ使用と所持が許される。
一方で、公開された駆除後のOSOの死骸の写真を見たハンターの赤石正男は「痩せてるなぁ」と呟いた。山にクマのエサとなる木の実類が乏しくなる真夏は、普通のクマであればアリなどの昆虫類や草木の根を食べてしのぐが、OSOはこの時期に牛を襲うことを覚えた。
だが標茶町・厚岸町にある従来の狩場は藤本らの警戒が厳しく、今年はまだ1頭しか襲っていない。飢えたOSOは、新しい狩場を求めて一気に南下した可能性が高い。
そうやって辿り着いた新天地で、呆気なく、ハンターの銃弾に斃れたのである。