今回は『人間の証明』を取り上げる。
この七月に亡くなった作家・森村誠一の同名小説を原作にした作品で、角川映画の第二弾として製作された。劇場、テレビ、音楽、出版と、メディアをフル活用した大宣伝を展開、その興行的な成功により、以降の角川映画のビジネスモデルの礎となった。
そして、これも後の角川映画の基本形となるのだが、予告編の出来がとにかく良いのだ。ジョー山中の歌う哀切な主題歌に乗せて、劇中の印象的な場面が次々と映し出される。それはわずか数分の映像なのだが、一本の映画を堪能したような感動に浸れる。
こうした、宣伝のための情報よりも、情感を重視したスタイリッシュな構成は、当時の日本映画の予告編において革新的な手法だった。
ただ、それができるのも、その素材たる本編そのものの映像が情感豊かなればこそ。日活の名カメラマン・姫田真左久に切り取られた、名優たちの芝居やスケールの大きい絶景の数々は、圧巻といえる。
物語は、黒人青年のジョニー(ジョー山中)がニューヨークから旅立つところから始まる。だが、ジョニーは東京で何者かに刺され、ホテルのエレベーターで息絶える。そのホテルでは、人気デザイナーの八杉恭子(岡田茉莉子)のファッションショーが開催されていた。麹町警察署の棟居刑事(松田優作)、横渡刑事(ハナ肇)は、犯人を割り出すため捜査を開始する。
捜査を通じて明らかになるのは、戦後間もない頃、実質的に日本を占領していた米軍に蹂躙される人々の姿だ。そこには、若き日の恭子も、少年時代の棟居もいる。それぞれが暗い過去を抱え、必死に覆い、今を懸命に生きる――。
そして、映像面で大きな効果をもたらしているのが、日本映画史上でも屈指といえるニューヨークでの大規模ロケーションだ。主に市警の刑事(ジョージ・ケネディ)によるジョニーの身辺捜査の場面が撮られているのだが、特に黒人居住区「ハーレム」を撮る際に姫田のカメラが冴え渡る。どこまでも荒んだ景色を捉えるザラついた映像は、『真夜中のカーボーイ』『フレンチ・コネクション』といった、アメリカンニューシネマの傑作たちを彷彿とさせた。
そして、その荒涼たるニューヨークと、日本の霧積温泉の桃源郷のような絶景とが対極的に映し出されることで、ハーレムを離れて日本へ向かったジョニーの想いがより浮き彫りになっていく。
ジョニーを演じたジョー山中自身の歌う主題歌が、ジョニーの想いの浸み込んだ映像と合わさるのだから、それは予告編も感動的になるわけだ。