1977年(143分)/KADOKAWA/1980円(税込)

 かつての角川映画は、予告編が感動的で、一本の映画を観たような満足を得られた。

 その大きな仕掛けとしては、主題歌と映像とのミュージックビデオ的な組み合わせというのがあるという点を前回述べたのだが、実はその映像のチョイスも重要だったりする。

 昨今は「ネタバレ」といって、映画の内容が事前に漏れることを敬遠する傾向があるが、角川の予告編ではそんなことはお構いなし。ドラマチックな映像を優先的に並べているため、展開上、かなり重要な「真相」やクライマックスの場面がふんだんに映し出されているのだ。たとえば前回の『人間の証明』でいえば「あんたの息子、郡恭平は、死んだよ――」という、最終盤のセリフしかり。

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 そして、今回取り上げる『野性の証明』は、さらに物凄いことになっていた。

 物語は、北上山地の山奥にある村落で起きた、村人の虐殺事件から始まる。訓練中にこの事件に遭遇した自衛隊の特殊工作員・味沢(高倉健)はそれをキッカケに除隊し、記憶喪失となった生き残りの村娘・頼子(薬師丸ひろ子)を我が子として育てることになる。一方、地元警察の北野刑事(夏八木勲)は味沢を犯人と疑い、執拗に追った。

 味沢の過去の「罪」との対峙が地元組織との対立と巧みに絡み合い、暗い影を背負いながらも懸命に今を生きようとする者のドラマが胸を打つ。

 そして終盤には、思わぬ急展開が待ち受けていた。頼子の記憶が戻り、北野は味沢に手錠をかける。だが、自衛隊は口封じのため味沢抹殺を命令。味沢、北野、頼子は山中で特殊部隊から追われる破目になってしまうのだ。

 さらに驚かされるのは、ラストだ。自衛隊の大戦車部隊が地平線の向こうから現われ、頼子を背負った味沢がそれに向かっていくところで終わる。それ自体も衝撃的なのだが、予告編のラストもほぼ同じ場面が使われているのだ。

 本編と同じラストなのだから、一本の映画を観終えたような余韻があるのは当然といえる。予告編で感動させ、その勢いで劇場に来させる狙いもあったのだろう。が、それだけではないと推理する。

 角川は、自社で既刊の小説を原作にしてきた。そして実は、先に挙げた『人間の証明』の終盤のセリフや、本作ラストでの戦車隊との対決は、原作にはない展開である。

 そうした場面をあえて予告編でネタバレすることにより、既に原作を読んで「どうせ結末を知っているから」と鑑賞を避けようという人に対して、「映画は違うラストになっている」と興味を引く狙いもあったのではなかろうか。そう思えてならない。