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「私はこうして殺されかけた」ロシア国内で戦争報道に尽力した女性記者が告発…プーチン政権による「言論統制」

 3月29日に、マリウポリに自分の身内を助けに行く予定の人たちとボランティアたちに会った。私はロシアのパスポートを持っているというのに、自分の車に乗せてくれるという人が見つかった。

 31日に出発するということで話がついた。

「彼らはあなたを殺すつもりよ」

 3月30日、出発の前夜を私はホテルで過ごした。力を蓄えようとしたのだ。「ノーヴァヤ・ガゼータ」の同僚から電話があった。彼女は私にマリウポリに行くのかと訊いてきた。私は驚いた、私がマリウポリに行くことを編集部で知っていたのは、編集長のムラトフと私の担当編集者のオリガ・ボブロワの2人だけだったからだ。私は、ええ、明日行きますと答えた。彼女はこう言った、「私の情報筋が連絡をくれたの。彼らはあなたがマリウポリに行くことを知っている。カディロフツィにあなたを見つけるよう命令が下っているらしい」。

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 カディロフツィは、ロシア親衛隊のチェチェン人部隊で、マリウポリの戦闘に積極的に参加していたし、検問所にもいた。私はそのことを知っていた。その同僚はこうも言った、「彼らはあなたを拘束はしないでしょう、殺すつもりよ。すべて打ち合わせ済み」。

 壁にのめりこんだような気分だった。耳が詰まり、目の前が真っ白になった。「信じられない」と私は言った。彼女は、「私も彼らに信じられないって言ったの。そうしたら彼らは、あなたがマリウポリのことを誰かと話していて、ルートを決めようとしている音声を聞かせてくれた。あなたの声だと私にはわかった」と言った。

 彼女が電話を切り、私はベッドに腰かけた。私は何も考えていなかった、ただ座っていただけ。

 40分後、ウクライナ軍情報機関の私の情報提供者から電話がきた。彼はこう言った、「ウクライナで『ノーヴァヤ・ガゼータ』の女性ジャーナリストの殺害が準備されているという情報がある。ロシア側の検問所すべてであなたをチェックしている」と。

編集長からの電話

 1時間後、ムラトフから電話がかかってきた。彼は言った、「君はもうマリウポリには行けないよ。今すぐにウクライナから出なければ」。

 でも私は出るわけにはいかなかった。

「ノーヴァヤ・ガゼータ」の編集長を務めたドミトリー・ムラトフ氏 ©時事通信社

 翌朝、私は「ノーヴァヤ・ガゼータ」の編集者からのメッセージで目が覚めた。最高検察庁とロスコムナドゾールが編集局に私が書いたウクライナのルポをサイトから削除するよう要求してきた、応じなければ、サイトをすべて閉鎖すると。「ノーヴァヤ・ガゼータ」はこれに従った。なぜだかこのことが私を最終的に圧し潰したのだった。私は泣き続け、泣き止むことができなかった。それから涙がおさまると怒りが込み上げてきて私の内に満ちた。

 それから私は、ロシアの検問所を迂回してマリウポリに入る新たなルートを見つけようとした。けれども、そんな道は存在しなかった、至る所で戦闘が行われていた。唯一の道はザポロージエを横断する道だった、でもこの道でも私は待ちぶせされていた。