カリフォルニアは、フランスのボルドーやブルゴーニュが、歴史の中で連綿と築いてきた葡萄の栽培・醸造技術を、極めて短期間のうちに科学の力で手にし、本家をも脅かす銘醸地へと進化してきた。核となるナパ、ソノマ地域にワイナリーは各800社。ワシントン、オレゴンを合わせると、実に2700社が鎬(しのぎ)を削る中、「パルメイヤー」の名を一躍、世に知らしめたのは1本の映画だった。「ディスクロージャー」(米・94年)。作中、入手困難な同社の「シャルドネ」が、陰謀を暴くカギとなる。
こうしたプレミアムワイン、さらに上を行くカルトワインと呼ばれる高級ワイン群は、最高品質がゆえに生産量が少なく、高額で世界中の好事家や投資家に取引されている。製造を担うのは、70~80年代に開業し、著名な栽培家や醸造家と手を結んで富と名声を勝ち得た有名ワイナリー。それらが今、世代交代を迎えつつある。
昨年、父親から事業を完全継承し、「パルメイヤー」の新オーナー社長に就任したクレオ・パルメイヤー氏曰く、
「父、ジェイソンは元弁護士で、長年の夢であったワイナリーを持つべく、ボルドー大でワイン造りを学び、1980年、ナパに最初の植樹をしました。以来、30余年、最高峰のワイン造りを実践して、今日の評価があります。
私は10代半ばでナパを離れ、長じてからも家業とは無縁でしたが、自社のワインがオークションにかかる場面に遭遇したのを契機に、父の下で働くようになりました。ちょうど、ソノマで新ブランド『ウェイフェアラー』を起こす時期で、恵まれた環境と布陣で一からワイン造りに触れ、約10年間、経験を積みました。
ワイン造りは創業者の情熱が受け継がれてこそ。娘の私が継がなくては『ただの会社』になってしまう、そう考えて社長就任を決めました」
カリフォルニアにおけるワイナリーオーナーは、「パルメイヤー」同様、不動産業者や弁護士が一代で財を成し、畑に膨大なお金をかけて始めるケースが珍しくない。米国人でないこともしばしば。法規制の厳しいフランスでは到底許されない、畑の土壌改良や、衛星で気候変動を捉えるといった、破格の術を駆使して究極の1本を生み出す。
結果ワイン価格は高騰し、畑とワイナリーの売買も盛んに行われる。子孫に事業が継承されるとは限らないのだ。
その点、ジェイソン氏はワインから一切、手を退き、ハワイへ移住したというから潔い。日本におけるカリフォルニアワイン輸入元の草分け、「中川ワイン」社長、中川誠一郎氏も、「大抵は先代が『院政』を敷く。稀有な例です」。
いよいよ「伝統」を紡ぐ第2章。カリフォルニアは、フランスをどう超えていくのか。
クレオ・パルメイヤー/ナパ「パルメイヤー」の創業者で、前オーナーのジェイソン・パルメイヤー氏の長女。2008年、同ワイナリー入社、ソノマ「ウェイフェアラー」立ち上げに参画。2017年、新オーナー社長に就任。2児の母でもある。
輸入元/中川ワイン
nakagawa-wine.co.jp
※小売りは不可
取材・構成:こんどう みほ