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ジャパネット創業者・髙田明「倒産寸前のJリーグ長崎を再建した“信じる力”」

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2018/03/23
髙田明氏

「私、学生の頃から英語が好きで、得意だと思ってたんですが、私が発音するとJ1(ジェイワン)が“ゼイワン”と聞こえるらしいんです(笑)。地元では『V(ヴイ)・ファーレン長崎はゼイワンになった』と勘違いされてる方が大勢いらっしゃいます」

 日本中でこの方ほど、声と顔が知られている社長さんはいない。ジャパネットたかた創業者の髙田明さんが、テレビ画面から姿を消したのは2016年のこと。その後、何をされていたかといえば、地元長崎のJ2サッカークラブ、「V・ファーレン長崎」の社長になっていた!

「以前からジャパネットがV・ファーレン長崎の胸(=メイン)スポンサーをしていましたが、『このままでは倒産する』という状況で、長男・旭人が社長を務めるジャパネットホールディングスの支援のもと子会社化し、その中で社長を拝命しました。

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 お給料も払えないのではという状況でしたので、『経営は早急に私が建て直しますから、選手やチームの皆さんは安心して、試合に集中してほしい』とお話ししました」

 こうして危機を回避した髙田さん。昨年4月、社長に就任するや、選手の環境改善に努め、サッカークラブを切り盛りすることになったジャパネットの社員たちの意識改革を図り、なんと、わずか6ヶ月半でチームをJ1に昇格させた。

「昇格を決めたとき、『長崎の奇跡!』と私は叫びましたが、元々、力のあるチームだと思っていました。必要なのは気持ちを切り替えて、自分たちも出来るんだ、と信じること。これはジャパネットたかたでも、サッカークラブの経営でも、全く一緒です」

 昇格を挟んでチームは13試合負けなし。1点が勝敗を決めるサッカーでは非常に稀(まれ)なことで、“長崎の奇跡2”と呼ばれつつ、J1になって迎えた最初のホーム戦(3月3日)。アクセス至便とはいい難いJR諫早(いさはや)駅からスタジアムまで徒歩30分の距離を、髙田さんはお客さんたちと一緒に歩いた。スタジアムは満員になった。

「ご存じのように、長崎は広島と並んで、世界で唯一無二の被爆地。サッカーを通じて長崎から平和を発信していくことは使命だと思うんです」

 V・ファーレン長崎の選手は背にユニセフの広告を付けてプレーするが、これもJリーグ初。3月14日にはルヴァン杯で待望の公式戦初勝利をあげ、チームは波に乗る。

「今年のチームスローガンは〈正々道々(せいせいどうどう)〉を掲げました。みんなが人のために、人を幸せにするために働く。サッカーもそのために戦ってるんですからね。長崎県民130万人の応援を受けるV・ファーレン長崎の存在や精神が、やがて世界を動かす。そうなることを望みます」

2017年11月11日、J1昇格を決める。歓喜に沸くサポーター席に向けて、背広の下の“昇格Tシャツ”を見せる髙田社長。(写真提供:V・ファーレン長崎)
選手と監督、チームスタッフと髙田社長(前列中央)。J1昇格を挟んで、V・ファーレン長崎は13試合負けなしを記録して、「長崎の軌跡2」と評された。(写真提供:V・ファーレン長崎)
2018年3月3日、J1となって初めて迎えたホームでの試合(対サガン鳥栖)。あいにくの冷たい雨だったが、電車で移動、JR諫早駅からスタジアムまで徒歩30分の距離を、お客さんと一緒に歩いた。取材も多く、テレビクルーも一日中、髙田社長に張り付き。(写真提供:V・ファーレン長崎)
雨にも拘わらず、スタジアムは満員になった。家族連れや高齢者のお客さんが多いことに喜び、「スタジアムに集まった皆さんの目の輝き、これこそが平和なんです」と報道陣に語った。(写真提供:V・ファーレン長崎)
サポーターのレプリカユニの背にもユニセフの広告。「被爆地・長崎からサッカーを通じて平和を発信していく」というのが髙田社長の信念。(写真提供:V・ファーレン長崎)
2018年3月14日、ルヴァンカップで念願の初勝利。チームのマスコット、ヴィヴィ君と舞台裏で抱き合う。(写真提供:V・ファーレン長崎)

たかたあきら/1948年長崎県生まれ。機械メーカーで海外駐在を経て、平戸で実家が営むカメラ店に入社。86年、佐世保に自社を設立。社長自らラジオやTVで商品をPRするスタイルで、日本一有名な通販会社に。2015年、社長を退任し、17年、サッカークラブ「V・ファーレン長崎」社長に就任。

INFORMATION

V・ファーレン長崎公式ホームページ
https://www.v-varen.com/

Jリーグチケット
https://www.jleague-ticket.jp/

取材・文:樋渡優子

ジャパネット創業者・髙田明「倒産寸前のJリーグ長崎を再建した“信じる力”」

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