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日本最高峰の料亭でもなく、ミシュランの星でもなく…料理人・笠原将弘(51)が目指す“憧れの存在”

日本最高峰の料亭でもなく、ミシュランの星でもなく…料理人・笠原将弘(51)が目指す“憧れの存在”

笠原将弘インタビュー#2

2023/09/23

genre : ライフ, 社会

note

――ええー。

笠原 おかしな話じゃん(笑)。もっと日常的に日本料理を食べに来てほしいという思いから、これくらいの値段だったら若い子も来られるだろうという価格帯の店を始めようと思いました。いまは、夜のおまかせコースが9,500円と12,000円。

――最後のデザートの種類が多くて、しかも全種類選んでもいいというのがたまりません。以前は1階のカウンター席だけでしたが、いまでは2階に個室をつくられて。

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笠原 5年前にビルごと買い取ったんです。おかげさまで予約が取れない店になっちゃって、もうちょっと広ければもっとお客さんに来てもらえるのにとか、器や荷物が増えて収納場所が足りないのもストレスで。移転も考えたけど、この場所が気に入って愛着もあるし、悩んでいたら、大家さんが「笠原さんだったらここ売ってもいいわよ」って言ってくれてね。

撮影 榎本麻美/文藝春秋

当初の計画は「とり将」を復活させることだったが……

――すごいタイミングですね。

笠原 土地付きで、建物も丸ごと買うって、こんな額払えるのかなって痺れました。でも、このチャンスを逃したら次はないと覚悟を決めて、80歳くらいまで働けば返せるかなあと。

 結果的にはとてもよかったです。この場所はすごく気に入っていて、駅から遠い立地でわざわざ食べに来てくださる方がほとんど。昔から住んでいる人が多いエリアだから、下町風情があってのんびりしていて、町内会のお祭りで神輿を担いだり、僕が育った武蔵小山に似ているなあって。

――以前、ゆくゆくは武蔵小山に戻りたいとおっしゃっていました。

笠原 そうそう、当初の計画は「とり将」を復活させることだったんだけど、こんなに「賛否両論」がうまくいくとは思わなくて。サザン再結成みたいに、恵比寿で成功して武蔵小山に凱旋帰国をするようなストーリーを考えてたんだけど、ビルごと買っちゃったからどうしようかなと。

撮影 榎本麻美/文藝春秋

 いまは武蔵小山も変わってしまって、タワーマンションが建って、昔の雰囲気がなくなっちゃったの。しかも焼き鳥屋激戦区になってて、俺帰る場所なくなっちゃったって、よく笑い話として言ってます。だから桑田さんがソロで活動しているような、もしくはKUWATA BANDをやっているような感覚で、なかなかサザン再結成までいかない(笑)。

――10年前のインタビュー記事で、「10年間よく続けられたな」とおっしゃっていますが、来年には20周年を迎えられます。どのような心境ですか?

笠原 10年前と同じように、おかげさまで、ここまでよくやれたなって。昔、好きなバンドが結成20周年とか聞くと、すごいなあ、よくやってるなあって思ってたんだけど、自分が実際に20年やってみると、あっという間だった気がする。まだまだやりたいこともたくさんあるし。