うちからは料理長をひとり送り込んで、スタッフは現地採用で、僕も毎月のように行って、ちょっと楽しかったのね。そうしたらある日、料理長から電話があって、「業者が支払いがされてないって乗り込んできました」って。食材の支払いは、間に入ってるおっさんの会社が全部やりますという約束だったのよ。
――日本の会社ですか?
笠原 いろんな人が絡んでいる会社で、日本人だけじゃなく香港の人もいて、誰が責任者かもなすりつけ合い。業者への支払いはされていない、しかも料理長に聞いたら「僕も給料を1回ももらっていません」と言われてびっくりして、もっと早く言えよーって。なんで言わないんだよって。けっきょくそのフロア全員が騙されていたみたいで。
――お金は戻ってこなかったんですか?
笠原 最初の工事費はあちらが持ったので、そんなに被害額はないんだけど、料理長の給料の未払いと、こちらから器を買って持っていったくらいの損害で済みました。でも香港のネットではけっこう叩かれてね。いまだに書かれてるんじゃないかな。
20年も「賛否両論」をやっていると、いろいろありますよね。ほかにも開店して潰したお店もいっぱいあるしね。
仕事をするうえで、悦びを感じるときは……
――そのなかでも、恵比寿のお店に立つ笠原さんはなくならない印象です。
笠原 それは僕が絶対に大事にしているところで、プレイヤーとしては店に立ち続けないと。じゃないと、説得力がない。
――笠原さんがお仕事をされるうえで、一番悦びを感じるとき、心が震える瞬間は、どんなときですか?
笠原 自分が関わったもので、いろんな人が喜んでくれるとき。シンプルだけど、そこだよね。お店でいえば「本当においしかった」「感動しました」「今日はいい記念になりました」といわれるとうれしいし、本なら本で、「うちは笠原さんのおかずで成り立ってます」「笠原さんの本で夫が料理するようになりました」とかね。
――6月に開設されたばかりのYouTube番組もすごく面白くて、登録者数もコメントの数もすごいです。なにがきっかけで始められたんですか?
笠原 僕はどちらかというと、YouTubeはまったくやるつもりがなかったのね。むしろ嫌いだったの、アナログな人間だから。それがたまたま最近知り合ったフリーのテレビのディレクターがYouTube番組の制作もしていて、「笠原さん、なんでYouTubeやらないんですか? やらないのはもったいない」って説得されて。「忙しいのはわかりますけど、月に何本こういうふうに撮って、笠原さんだったらこれくらい収益が見込めて、細かい編集作業は全部こちらでやります」って言われたので、じゃあちょっとやってみようかなって気になっちゃったんだよね。